モーフィアスの教室2

モーフィアスの教室〈2〉楽園の扉 (電撃文庫)

モーフィアスの教室〈2〉楽園の扉 (電撃文庫)

モーフィアスの教室2 楽園の扉

著者・三上延先生。挿絵・椎名優先生。アクションホラーとでも言えばよいのでしょうか?そんな作品ですね。三上延先生の他著作は、電撃文庫レーベルでは『ダーク・バイオレッツ』シリーズ、『シャドウテイカー』シリーズ、『天空のアルカミレス』シリーズ、『山姫アンチメモニクス』シリーズなどがありますね。挿絵の椎名優先生は『月と貴女に花束を』シリーズ、『麒麟は一途に恋をする』シリーズなどで挿絵を描かれていますね。
・登場人物
主人公で最近奇妙な『悪夢』に不眠に悩む高校生の岸杜直人。直人の幼馴染で直人にも話せない秘密/謎がある久世綾乃。直人、綾乃共通の友人のクラス委員の倉野棗。基本メインはこの3人かと思います。他は直人の妹の岸杜水穂、綾乃の母親の久世虹子など。
今巻では水穂のクラスメートの野木幹央。その両親や妹が重要人物として登場しますね。
・シナリオ
現実を浸食する悪夢“夢神”の一人・ヨミジを辛くも倒した直人。彼は夢と現実世界を隔てる“扉”を開く黒い鍵・モーフィアスを手に、“扉の民”として“夢神”と闘う決意を固める。一方、直人と共に闘うことを心に決めた綾乃は、直人の家に半ば無理矢理住み着いてしまう。同居の事実を周囲にひた隠すため苦心する直人と綾乃だが、棗は何かに気が付いたようで…。そして事情を知らない直人の妹・水穂は綾乃に嫉妬の念を燃やすが、その周囲には新たな“夢神”の気配が。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この巻は派手なアクション性のあった前巻に比べると、少し落ち着いた印象を覚えますね。前巻の夢神「ヨミジ」に比べて、この巻で現れる夢神はその行動が潜伏型というかで影が薄く、アクション要素がほぼ無いのがその理由でしょうか。
今巻は直人の妹の水穂の、同級生が話の中心にいる話です。悪夢を見ている人から現実に干渉し、人を遅い食らう『夢神』から人を守る『扉の民』として生きていく決意を固めた直人。そんな直人が、また悪夢を見始めた。それを聞いた綾乃は悪夢を見ている人がいないか、昏睡している人がいないかを直人と2人で調べ始める。だが、実は既に何件も連続行方不明事件が発生していた。昏睡ではなく行方不明。これが意味する今度の夢神は、一体どんな相手なのか…。調査を続けるうちに、水穂の同級生が怪しいという情報が浮上するが時同じ頃に寝るたびに悪夢を見てしまい、不眠気味で体調を崩しがちな直人がきちんとした睡眠を取れるようにと、綾乃は直人と水穂の家に住み着いて同居生活を始めていた。夢神の事情を知らない水穂は兄と綾乃がふしだらな関係になった…!と怒り心頭。直人は水穂の同級生の情報を聞き出すに聞き出せなず、直人と綾乃ふたりの友人、倉野棗も2人の関係と態度に疑問を持ち、夢神と関係の無いところでも問題が山積み状態。「普通の生活」と「『扉の民』としての生活」。二つの立場に挟まれた直人と綾乃がどう対処するのか、その動向には目を吸い寄せられますね。
今巻は、1つの家族が取った最後の選択肢が発端になって起きる悲劇ですね。生活環境が変わったことでそれまで同様の生活を送れなくなったある一家が、夢神が関わった事で更なる形で悲劇を迎えてしまった、という形で。とはいえ総じて見ればこの作品は「夢神が一家に悲劇を起こした」のではなく、「悲劇が起きた一家に夢神が関わった」で、夢神がいなくとも最初から悲劇的な結末しか待っていない、誰もが笑える結末の無い悲しい物語でした…。
今回の事件の全てにおいて、登場人物たちは『決意』をしなければならない話だったな、と思いました。綾乃は自分が「夢神」であることを、事情を幾らか知った親友である棗に勇気を出して知らせる決意。棗は事情を知らない自分がその事情を知りたがるのは何故なのか、ということに向き合う決意。野木幹央は、自分がおかしいと思い感じているその正体と向かい合い、全てを受け入れる決意―――。そんな、登場人物各人が持つ悩みや迷いと、決意で持って向き合っていくのがこの巻での話の肝部分と感じました。
手にしていたものを失った絶望と希望の見えない未来に、戦うことを諦めてしまった一家。そんな一家の長男が夢神に関わり一時の間見ていた夢があった。幸せな家族を求める心が見せる夢。だがそれは犠牲者を出す夢であり、直人と綾乃はそれを止めようとする。そして長男自身も、夢である事に違和感を感じ始めていた―――こういった設定とその心理的な描写は、行間などで見事に魅せてくれまして、長男がそんな形で夢で求めてしまうのも無理は無い背景だな、と感じました。三上先生は本当に心の弱い所とか闇の部分を抜き出す形で書きますと、見事な形で書き上げられますね…。