セキララ!!

セキララ!! (ファミ通文庫)

セキララ!! (ファミ通文庫)

セキララ!!

著者・花谷敏嗣先生。挿絵・京極しん先生。第9回えんため大賞”奨励賞”受賞の作品でデビュー作、ですかね。挿絵の京極しん先生も電撃文庫レーベル「ほうかご百物語」で文庫のイラストレーターとしてはデビューしたばかりですので、デビューしたばかりの2人による作品、となります。(2008/03/19太字部分一部修正。)
・登場人物
主人公で、かつてJ・Jというハンドルネームでネット小説「邪王戦聖記」を書いていたが荒しなどによりサイトが炎上。今ではその過去を忘れ、バンドをしている普通の学生をしようとしている甲拓巳(きのえ たくみ)。拓巳が書いていた「邪王戦聖記」のヒロインで、何故か現実に出現して拓巳の前に現れた柊火琉奈。高校に入ってから拓巳が付き合い始めた、拓巳の過去を知らない筈の彼女、舞羽桜。拓巳の同級生でPCに強い久実本。火琉奈が出現した事で拓巳、久実本が協力者として接触した、かつて「邪王戦聖記」のファンだったハンドルネーム・ブタマルGT。
主な登場人物はこんな所で、他には拓巳の母や火琉奈同様に現実に出現する小説の敵などが登場します。
・シナリオ
「おまえ、瘴気の匂いがするぞ」夕暮れの街で女剣士に話しかけられ、おれは焦った。もしかして火琉奈か?おれが昔書いた小説のヒロインの!?設定通りおれを慕い、妄想通り美少女だ…って嘘だろ、あり得ねえ!!第一あの小説はおれのトラウマなんだ。あの事件のショックで創作をやめ脱オタし、今は無難な高校生活を送ってる。だから素直に喜べないし、平和な“今”が壊れそうで大ピンチ!!第9回えんため大賞奨励賞受賞、悶絶と泣き笑いの超次元狂詩曲。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は、昔、HPを運営していて今はサイトを閉鎖している人などなら、共感が多く持てる作品じゃないでしょうか。かつて思いのまま、自分の作りたいままに構築したサイト。それは自分のエゴや誰かに見てもらいたいという感情を含み、雑多な変化を遂げた事だろうと思います。この作品はそんな過去に作られたサイトが、もし、今あなたの前に現れたら…という、そんな過去との対面の物語ですね。
テンプレート的な話、どこかで聞いたような話を真面目に小説として書いた「邪王戦聖記」。一部分を抜粋して書き出される形式で作中でもこの作品に関しては語られていますが、中学生が思いつくままの『カッコウ良い』と思うもの書いているようなその文体は、恥ずかしいほどの直球な展開と当て字が、この作中作が難しい話を考えたりする商業作品ではない、あくまで”趣味作品”であり、ストレートな感情をぶつけた結果の作品なのだな、と思わせてくれます。その直球具合は半ば変に作品を『作ったり』して、中途半端なものになるよりも現実味があっていいですね。
昔の作品があなたの前に現れる。それは過去の自分との対面であり、この作品でもそこがキモとして書かれていました。未熟だった自分、考えの足りなかった自分、或いは自分のことしか考えていなかった自分。それらと主人公である拓巳が対面し、何故か現実に出現した火琉奈と触れ合いながら過去、自分が見ていなかったこと、気が付かなかった事と対面していく―――そんな過去との邂逅―――目を逸らした過去をもう一度見つめ直し、少年が少しだけ人の心が思いやれるようになる、というのがこの作品を読んでいて感じた感想でしたね。