リセット・ワールド

リセット・ワールド 僕たちだけの戦争

著者・鷹見一幸先生。挿絵・Himeaki先生。鷹見先生の著作「小さな国の救世主」シリーズと同じコンビです。鷹見先生は他作品にスニーカー文庫レーベルからは「でたまか」シリーズ、「銀星みつあみ航海記」シリーズ、「ネオクーロン」シリーズ、電撃文庫レーベルからは「時空のクロス・ロード」シリーズ、「ガンズ・ハート」シリーズ、そして前述の「小さな国の救世主」シリーズなど、数多くのシリーズ作品を出されていますね。
・登場人物
主人公、一見特徴の無い平凡な容姿だが、頭の回転は良く機転も効く18歳、園山慎吾。男装して西東京協和国に潜入していて慎吾と出会う矢上由紀江。捕虜として連れてこられたが慎吾に助け出される少女のサナエ。慎吾が連れていた犬のメンマ。
敵役として西東京協和国の参謀、実務を一手に引き受け慎吾たちを狙う計画を立てる、多目。西東京協和国のシンボルであるカリスマ、大統領の大道寺。
他にサブキャラとしては、大宮のコミュニティ・メンバーや西東京協和国のコミュニティ・メンバーが何人か、といった感じです。
・シナリオ
あの大崩壊から5年。世界は一変した。大人は死に絶え子供だけの世界。立川辺りが西東京協和国を名乗っていたり…。そんな東京を目指して歩く人がいた。見た目は平凡だが時折鋭い目配りをする少年、園山慎吾。彼が見た西東京協和国はカルチャーショックに値するものだった。大統領を名乗る男がいて入国には許可がいる―国家ごっこ。だが活気に満ち、そこには確かに人の営みがあった。慎吾はこの街で矢上と名乗る美しい少女と出会う。慎吾の印象に反し、彼女はこの国はまやかしだという。そして明らかになる真実。その暗部を知った慎吾たちは国から脱出しようとするのだが。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は著者先生である鷹見先生の初期作品「時空のクロス・ロード」シリーズと世界観を同じくする作品です。「三日熱」と呼ばれる、発症してから3日で死に至る凶悪な伝染性ウィルスの世界的な蔓延により、世界中から大人が殆ど消えて子供だけになった世界。廃墟と化したビルや家並みの中で、僅かに残った物資や燃料を細々と消費しながら子供たちは独自に作り上げたコミュニティで生活している。そんな現代に現れた戦国時代の様な世界で、子供達が必死に生き延びようとしている姿が書かれた作品ですね。
この作品は前述した「時空のクロス・ロード」シリーズと世界観が同じの為、どこかで名前を聞いたような人が出てきたり「時空のクロス・ロード」シリーズで起きた事件、出来事の結果もたらされた変化がこの作品で「過去に起きた出来事」として書かれていたりします。そんなリンクは、長く読み続けている私などにはたまらない懐かしさと嬉しさが感じられましたね。
内容は、とあるコミュニティから現地調査の形で派遣されてきた園山慎吾が、その調査対象として選んだ西東京協和国に入り、そこでヒロインである矢上と出会い彼女から国の実態を聞き、さらに捕虜だったサナエを助けて西東京共和国を脱出。矢上の出身である大宮のコミュニティへ彼女達を連れて逃げ戻るまでの間に起きた逃亡劇が書かれている、といった感じです。
この作品に限らず、鷹見先生は「人間のできることを精一杯描いている姿」がとても力強く印象的に残る書き方をされますね。ナマの人間の、飾らない精一杯の生命の爆発的な”熱さ”を感じる言葉が書かれていて、それは敵味方を問わずにとても魅力的にキャラクター達を魅せています。また行動も、手元にあるもので何をできるかを考え、無いものがあれば代用品を調達し、出来る事を探してそれに全力で挑んでいく―――そんな人間本来の力強さ、タフさを、鷹見先生の作品は感じさせてくれます。ハイテク機器などが当たり前にあり、何かをする事に全力を出す必要の無いなんでもある今の時代に、この作品は享受しているだけではともすれば忘れかけている「人間は0から何かを為せるのだ」ということを思い出させてくれますね。
この作品では強力なコミュニティである西東京協和国に追い立てられる逃亡劇が中心で、その中で慎吾たちが知恵と力を絞って大宮まで逃げるという姿が中心に書かれていました。次巻以降は大宮からさらに移動した先、前橋のコミュニティで慎吾は前橋を守る為に何かをするようなので、次巻は防衛戦的なものになりそうです。そこでまたどんな知恵と機転を見せてくれるのか、今から楽しみですね。