神曲奏界ポリフォニカ 黒7

神曲奏界ポリフォニカ メモワーズ・ブラック (GA文庫)

神曲奏界ポリフォニカ メモワーズ・ブラック (GA文庫)

神曲奏界ポリフォニカ メモワーズ・ブラック

著者・大迫純一先生。挿絵・BUNBUN先生。シェアード・ワールド神曲奏界ポリフォニカ』の『ブラック』と呼ばれるシリーズ作品です。大迫先生は他著作にHJ文庫から『鉄人サザン』シリーズなど出されていますね。
・登場人物
精霊警官で警部補の巨漢の大男、マティアの契約精霊である通称マナガことマナガリアスティノークル・ラグ・エデュライケリアス。マナガと契約している楽士警官であるマチヤ・マティア。2人が住むアパートの大家、カリナ・ウィン・チトクティルサ。イデ・ティグレア検死官。
事件に関わる人物としては、父親が無実の罪で強盗傷害で投獄され、それ以来1人で生きてきたサジ・シェリカ。シェリカの父、2年前に強盗傷害で逮捕されてしまったサジ・デルウィッツ。世界有数の大企業オミテック工業のミガナ研究所の所長、ヤグニ・アグラット。ヤグニ・アグラットの秘書のような事をしているが神曲を対価にする契約精霊ではない、精霊のウォナーリア・ゲニカ・ヤクリトーレ。
・シナリオ
ある日マナガとマティアが街で出会った宿無しの少女シェリカ。2年前、父親が強盗傷害で逮補されて以来、父の無実を知る少女は街で生き抜いてきた。身元を隠し、美しいヒマワリ色の髪を隠し、誰にも頼らず誰も信じず、たった一人で戦ってきたのだ。だがマナガとマティアに心を開いたとき、孤独な少女は胸に秘めていた願いをつぶやく。「パパを助けて」有罪の決め手となった監視カメラの映像、父に不利な警務員の証言。果たして二人はシェリカの魂の叫びに応えることができるのか!絶好調黒のポリフォニカ第7弾。シェリカ登場です。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この巻は過去の話の巻ですね。第6巻とは時系列として繋がっていません。言うならばこの巻は第0巻に当たる、マナガとマティアの出会いの話が書かれたキネティック・ノベル版のポリフォニカ・THE BLACKの話と、原作第1巻の間に入る話なのではないでしょうか。言うなれば『第0.5話』、とでも言うような。書いた順が原作の発刊順序通りではないらしいので、厳密には色々と前後しているのかもしれませんが今巻に限れば、上記の形で収まってよいのではないかと。
話―――起きる事件の内容としては、事件の真相に近いところにいる為に何者かに狙われて逃げ回り、かっぱらいの真似事をやってその日を何とか生きていたサジ・シェリカが、ひょんなことからマナガとマティアに捕まり、ふたりに保護されて暮らすうちにマナガとマティアを信用し、シェリカが父親の無罪を訴えかけてそれを聞いたマナガとマティアの2人がサジ・デルウィッツの事件の再捜査に乗り出す――ーそういった流れで話が進められていきます。
今巻の黒ポリの推理物の部分としては、変装に関する件と、移動時間の不可能を可能にするトリック―――といったものが見られますね。その大部分が精霊の力を使ったものであり、犯人が精霊か、人間か、といった推理は今回も無しでした。ですが犯人の内面―――真犯人の心境、何故そんな事件を起こそうとしたのかということに関する事が所々で書かれていて、それが犯人の自分勝手ぶりを浮き彫りにして、読み手としてはマナガとマティアを応援したくなりますね。最後の詰めで、真犯人に対して、シェリカが泣きながら父親との時間が失われた寂しい日々の悲しさを訴えかけるシーンは、読んでいてグっときましたね。少女がストレートな感情をぶつけている姿は、哀愁のブルース・ハープが響く時に匹敵する物悲しさでした。
さて、前述したように、今回は推理に関しては方法を模索するだけですが、代わりに今回はマティアとシェリカの2人の少女が友人関係を育んでいく、という心の交流が描かれています。マナガとマティアの2人の間に入るものが何も無かった(レオンもまだ間に入っているとはいえないと思うのです)これまで。しかし、今回の同年代の友人という立場のシェリカの登場は、マナガを介さないマティア個人の交友関係というものが出来た感じで、マナガとマティアの二人だけだった世界に新しい風が入りこれからシェリカがどうマナガとマティアの2人に絡んでくるのか、といった期待も感じますねー。