神曲奏界ポリフォニカ 黒6

神曲奏界ポリフォニカ ペイシェント・ブラック

著者・大迫純一先生。挿絵・BUNBUN先生。シェアード・ワールド神曲奏界ポリフォニカ』の『ブラック』と呼ばれるシリーズ作品です。大迫先生は他著作にHJ文庫から『鉄人サザン』シリーズなど出されていますね。
・登場人物
精霊警官で警部補の巨漢の大男、マティアの契約精霊である通称マナガことマナガリアスティノークル・ラグ・エデュライケリアス。マナガと契約している楽士警官であるマチヤ・マティア。検死官のイデ・ティグレア。警官のワツキ・フレジマイテ。
事件に関わる人物としては、被害者のテラマ・シュレディング。娘のテラマ・ルニエット。被害者シュレディングの妻、テラマ・ラディエーネ。テラマ夫妻の20年来の友人の精霊、セライザ・ウィケ・セリアーシア。
・シナリオ
テラマ・シュレディングが最後に見たのは、愛車にまたがったまま進んでいく自分自身の身体だった。いつものルートをいつものように走り、そして家に帰るはずだった夜、彼は一瞬で絶命した。環状高速で起きた多重衝突の現場に駆けつけたマナガとマティアが見たのは、衝突して壊れた車と、あり得ない精度で切断された男の頭部。それに中央分離帯に残された謎の“螺旋”。その状況から精霊による殺人の疑いをもった二人は、被害者の身辺を捜査するのだが、その裏には二人が想像もしなかった深い動機が横たわっていた!ブルースハープが鳴り響き、隠された真相があらわになる!黒のポリフォニカ第六弾。(7&YHPより抜粋。一部誤植がそのままだったため修正済み。)
・感想
今回の話は、交通事故の中でマナガとマティアがワツキによって知らされ、そこから関わっていく精霊による殺人の事件ですね。
人には不可能な方法での殺害から始まる事件は、犯人が既に『精霊』と判明―――括られていることからもわかるように、登場人物の中で「こいつが犯人だ!」とわかるような展開になっています。つまり今巻は、犯人が誰かわかっている状態で始まり、彼が何故、その犯罪を犯したのか。どうやって、その犯罪を犯したのか。そういったものを推理しながら犯人を追い詰めていくマナガとマティアを見て楽しむ作品―――そう感じましたね。
それと同時に今回も哀愁のブルース・ハープが奏でる背景は、20年来の親友たちが僅かな擦れ違いを起こし、或いはほんの小さな、だけど本人にとっては譲れない大事な事を誰かが知らずに汚してしまっていたことから起きた事件。家族愛に溢れ仲の良かった友人達が些細な事から関係が破綻する事もある、としてまた物悲しい話でしたね。20年の月日が積み重ねた友人関係は、愛ゆえに憎深く、僅かな歯車のズレでかくも脆くなってしまうものなのか、と…。
さて今巻、描写が何時になく生々しいところが多かったです。遺体の状況の説明から被害者の殺害方法に関しての考察など、どうしても血生臭い状況の説明が多く、その為これまでよりも如実に事細かに説明されている文が多く、『ポリフォニカ』としてはまた異彩を放っていますね。しかしこの作品はその生々しさが哀愁を産み出す要素の1つでもあり、切っても切れない関係ですからこれはこれで割り切るしかないでしょうね。
そして少し目線を変えた感想を。マナガとマティア、2人の関係について。この2人は今巻で、さらに2人で1人的な深い信頼関係を見せて、同時にそんな相手にだけ見せる姿をマナガもマティアも見せていて、2人の日常的な面―――2人で食事を取るシーンなどは、互いにリラックスしていて隙のある姿を見せたりして、BUNBUN先生の絵の後押しもあり両方とも『可愛い』ですね。いつもは黒の姿に澄ました表情、というマティアが目をキラキラさせてマナガにおねだりするところや、筋骨隆々とした巨漢でマティアを担ぎ上げてドーンと立っているような印象のマナガが額に汗を垂らしながら困っている顔などは、ギャップもあって大変魅力的でした。
そんな2人の関係に何かまた影が落ちそうな、そんなラスト―――マティアに起こった異変で終わる今回の話は、マナガとマティアという『黒の2人』の話も何か大きな話に入る前兆なのかな、と思いましたねー。