いちばんうしろの大魔王

いちばんうしろの大魔王 (HJ文庫)

いちばんうしろの大魔王 (HJ文庫)

いちばんうしろの大魔王

著者・水城正太郎先生。挿絵・伊藤宗一先生。水城先生は他著作として富士見ミステリー文庫レーベルで「東京タブロイド」シリーズやHJ文庫レーベルで「せんすいかん」シリーズなどを出されていますね。
・登場人物
主人公で「将来の職業…魔王」と宣告された事をきっかけに受難の学生生活を送る事になる紗伊阿九斗。落ちこぼれの天然少女で阿九斗に出会い彼に懐く曽我けーな。阿九斗と初めは友人になるが、阿九斗が受けた宣告に裏切られたと思い込む直情型の委員長気質人間、服部絢子。将来の職業・魔王を宣告された阿九斗を監視するためにやってくる人造人間<リラダン>の、ころね。女子寮の寮長をしている一見優しげだが実は腹黒い策謀家の江藤不二子。言動が下っ端で実際にも下っ端のヒロシこと三輪寛。
・シナリオ
社会の役に立つために「コンスタン魔術学院」に編入し、国家一級魔術師を目指す紗伊阿九斗。しかしその初日にとんでもない予言をされてしまう。おかげで委員長の女の子に恨まれる、不思議な力を持つ少女に懐かれる、帝国の監視員である女性型人造人間に見張られるなど散々な学園生活を送ることに…。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は、主人公が無自覚に様々な騒動を巻き起こしてしまったり巻き込まれてしまったりする、という作品ですね。
対象の人物の潜在能力や適正を魔術的に診断しアドバイスするシステム。その結果で「将来の職業、魔王」と宣告された主人公の紗伊阿九斗が魔王にはならないと言いながらも、そのつもり無くも魔王っぽい思考や無意識の言動/カリスマで周囲に「魔王」として認識されていってしまう展開が面白いです。それも明らかに『魔王っぽい』のではなく、色々と彼なりに考え、『魔王ではない行動』を目指して取るが、客観的に見るとそれはどうにも『魔王っぽい』行動となっている―――そんな、言葉遊びというか、何故か魔王とは逆の行動のはずが受け取り方1つで魔王っぽくなる、となっていて阿九斗の思惑と逆の受け取り方をされる誤解が産み出す展開が、この作品のキモですね。
ヒロイン達はそれぞれにまた一風変わった魅力を持つ者、スタンダードなヒロインのような者、スタンダードに見えて変わっている者、といろいろ揃っている感じです。人間ではないヒロインとして人造人間のころねは、真面目に見えて要所でトボけた発言をしてギャップを感じさせていますし、絢子は強気な委員長でツンデレ。けーなはその過去とかを見るに阿九斗と昔関わった事がある正統派ヒロインに見えて、その実まったくそのことを覚えていないなどと肩透かしを食らわせてくれるなど、3人のヒロインが登場しながらもそのキャラクター性は被るところ無くバラけていて、よくできた人物配置でしたね。
総じるとこの作品は、阿九斗が魔王にならないために色々とやっているが、周りがそれを曲解したり誤解したりしてさらに『魔王』として認識されてしまう、そんな状況に主人公がままならないと嘆く姿を楽しむ作品、でしょうかねー?