神曲奏界ポリフォニカ レオン・ザ・レザレクター

神曲奏界ポリフォニカ レオン・ザ・レザレクター

著者・大迫純一先生。挿絵・忍青龍先生による通称『黒ポリ』と呼ばれる神曲奏界ポリフォニカBLACKシリーズでサブキャラクターとして登場した人物を主役に据えて送られるスピンオフ小説です。
・登場人物
主人公に精霊探偵を名乗るフェニミストな上級精霊レオンガーラ・ジェス・ボルウォーダン。探偵であるレオンに妹の捜索を依頼する形になるセナ・メイリン。彼女の妹で物語冒頭では失踪しているセナ・シャルミタ。ニコン市警の刑事でレオンが依頼された失踪事件に関わりのある事件を追うことで登場するサムラ・アレクシア巡査部長。他にはレオンの知人で友人で娘の如く面倒を見てきた女でもあるロレッタ。ざっとこんなところですね。
・シナリオ
「お願いです、妹を助けてください!」任せときな、と調査に乗り出した俺だったが、少しばかり厄介なことになってきた。依頼人メイリンとともに出向いたコレアル神曲学院で、俺は事件が予想を超えて広がっていることを知らされたのだ。
連続誘拐事件?おまけに屍体まで!?おいおい、どうなってやがる!
若い女性、神曲楽士、そして契約精霊なし。この三つの共通点が意味するものは何か!?事件の裏にある、歪んだ悲劇とは!
男には強いが女の涙にめっぽう弱い。ブラック・シリーズに登場した“探偵レオン”がスピンオフしての新シリーズついにスタート。(裏表紙及び7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品はスピンオフ小説ですが、ちゃんと『ポリフォニカ』していますね。印象としてはやはり作者が同じと言う事で黒シリーズに近いイメージがあります。刑事として犯罪や事件に関わったりして話が進んでいくのが黒シリーズで、それとは違うアウトロー的立場として探偵業の一環で犯罪や事件に関わるレオンシリーズ。言うなれば『法の元、真っ当に事件を追う者』と、『例え法から外れても、事件を追う者』の話というのがそのまま黒シリーズの話とレオンシリーズの話になる、と言い換えられますかね。
この巻はレオンが1人の女性からの依頼で、失踪人を探す事から大きな事件に繋がっていく、という形です。依頼人の妹の失踪が実は連続する誘拐事件と根幹を同じくするものであると判明し、ニコン市警のアレクシア巡査部長と協力したりしながら連続誘拐事件の真犯人を追い詰めていく―――そんな展開です。
この作品は色々な意味で黒シリーズと対極的です。主人公であるレオンの立場。捜査の方法。最後の場面での決め方など様々な面でそれは見られますね。
主人公の立場が黒シリーズが警官ならレオンシリーズは探偵でその立場は法の代弁者とアウトローと両極。捜査の方法も黒シリーズが僅かな手掛かりからマティアが閃いたり推測して裏付けていくのに対して、レオンシリーズは勘や相手が動いて初めて呼応できたりと後手の印象。最後の場面での決めも、黒シリーズがブルース・ハープの音色と共に物悲しい中で悲哀を込めてマナガが動いたりするのに対してレオンシリーズでは、このレオン・ザ・レザレクターしか2008年01月25日現在まだ出ていませんが、レオンが激昂と共に感情を発露させ、憤りのままにその全力を振るい犯人を圧倒的に痛めつけノシてしまう、と、あらゆる印象が対極的でしたね。
しんみりした黒シリーズがサスペンス映画のようなミステリーを前にした主人公達―――マナガとマティア―――が、謎を解いていき最後に追い詰めた犯人とのやり取りを楽しめる作品なら、レオンシリーズはアクション映画かはたまた仁侠映画の様な派手な動きと善悪無く一つの信念で動く男の『漢気』が燃える話、でしょうかね。
しかしながらこの作品もまた『ポリフォニカ』だと思ったのは、話の根幹となる事件が起きた理由がそもそも『失われた神曲』を巡る悲しい話から始まるものであり、レオンが憤る理由が被害者達やその関係者への義憤的なもの以上に、『間違った神曲の求め方』をしている犯人への激怒と悲哀であることが伺える描写などから、この作品が黒シリーズ同様に『悲しみを背負った精霊が神曲を求めた物語』であると感じたからです。そう、精霊探偵のキザ男。斜に構えて飄々としたイメージのレオンという男の単なる探偵業の一環である人探しの小話から紡がれる事件ではなく、あくまでこのレオン・ザ・レザレクターは『神曲を巡る精霊と人の絆の話』だと感じたから、この作品もれっきとした『ポリフォニカ』だと私は感じたのです―――。