紅3

紅 〜醜悪祭〜(上)

著者・片山憲太郎先生。挿絵・山本ヤマト先生による、シリーズ作品の第3作目です。同一世界観を使った作品『電波的な彼女』という、片山憲太郎先生によるスーパーダッシュ文庫レーベルでの初シリーズがありますね。山本ヤマト先生は他に電撃文庫『9S−ナインエス−』シリーズの挿絵や前述の『電波的な彼女』の挿絵を担当したりしてます。
・登場人物
新米揉め事処理屋で崩月の鬼の角を右手に移植されている通称『崩月の小鬼』で16歳の高校生主人公、紅真九郎。大財閥九鳳院家が繁栄する為に作られたシステム『奥の院』で育てられ、真九郎と出会うまで外の世界を知らず九鳳院の家系図にも載らない立場だった7歳のヒロイン小学生、九鳳院紫。真九郎が戦い方を学んだ崩月流の一家の長女で、今でも真九郎の面倒を見ようとする年上のお姉さんこと崩月夕乃。世界最強の揉め事処理屋で、真九郎の揉め事処理屋としての師匠とも言える女傑、柔沢紅香。祖父から引き継いだ情報網で表裏を問わず社会に精通する情報屋で真九郎の同級生の村上銀子。真九郎が住むアパート五月雨荘の住人の闇絵と武藤環。
この巻から登場は、裏十三家と呼ばれる社会の裏側から世界に干渉する一族の娘、星噛絶奈。真九郎に揉め事処理屋として依頼をしにきた6歳の少女、瀬川静之。こんなところですね。
・シナリオ
新米揉め事処理屋の高校生・紅真九郎。紫と初めて迎えるクリスマスを目前に、銀子からもたらされた凶報。それは、真九郎の目標である柔沢紅香の死。信じられない真九郎は、その真偽を確かめる決意をする。そんな中、新たな依頼人が現れる。瀬川静之、6歳。姉の行方を探してほしいと言う彼女の依頼を受けた真九郎は早速動き出す。守るべきもの、進むべき道、そして生きる意味。真九郎の心が向かう未来は…。(裏表紙より抜粋。)
・感想
荒事解決などを請け負う『揉め事処理屋』としてまだまだ新米の少年と、小学生だが超巨大な大財閥一族九鳳院の隠されていたお姫様とが遭遇する、危険と様々な思惑に溢れた物語ですね。
この巻では6歳の少女から依頼され彼女の姉探しを真九郎がするところから話が始まります。少しだけ普通とは違う部分―――揉め事処理屋としての活動がありながらも、高校生活をしていた真九郎。時に紫が押しかけてきたり、時に銀子に情報の代価の払いを待ってくれと頼んだり、時に夕乃と町で会って話をしたりして過ごす。そんな日常の風景を、前半から中盤部分で書きつつ、後半では依頼―――瀬川静之の姉、瀬川早紀を探して揉め事処理屋として活動する真九郎がこの巻では書かれていましたね。
この巻は上下巻、或いは上中下巻構成のようで、この巻では日常風景〜依頼を受けて揉め事処理屋として活動を開始するまで、といった感じで書かれていました。つまり、この巻では明確に真九郎が覚悟を決めてするバトル的なものは無く、巻き込まれる形で戦いが始まったりして、真九郎としては逃げ回りながら打開策を探すといった姿しかなかったということです。ですがその分、相手である星噛絶奈の超人振りというか、裏十三家の1つ『星噛』の名に恥じない傍若無人な超人的強さが明確になるように書かれていましたね。奇異な言動が目立つも、『世界最高の揉め事処理屋の女傑・柔沢紅香を殺害した女』という触れ込みで登場し、真九郎を圧倒し、と。色々な意味で超人として書かれていてその有り様が面白かったですね。
日常風景的な面では、真九郎の高校にやってくる紫といった出来事や、真九郎と紫が映画を見に行ったり、カフェにもなるパン屋で食事をしたり、真九郎が銀子を尋ねて家に行った際に銀子の一家とのやり取りが書かれていたり、真九郎と崩月の一家とのやり取りが書かれていたりと、様々な真九郎を取り巻く日常が書かれていましたね。それらが本当になんでもない日常のひとコマで、その分、瀬川静之がやってきて揉め事処理屋としての影が見え出すと、その影がより深く濃く見える気がしました。明るい日常風景と暗く重い揉め事処理屋としての活動がよい対比になっていた、という感じでしょうか。天真爛漫な紫の言動などの後に揉め事処理屋としてのシリアスな部分が始まると、それだけで社会の裏側の闇の濃さが、如実になる―――そんな印象が強かったですね。
そしてまだ話はまったく終息しておらず、様々な謎―――柔沢紅香の安否や、星噛絶奈と真九郎との対立の結末、行方不明の瀬川早紀はどうしたのか、など、色々と気になるものを残したまま続いています。ので、先がとても気になるラストでしたねー。