アキカン!

アキカン!

著者・藍上陸先生。挿絵・鈴平ひろ先生によるラブコメディ小説です。裏表紙に書かれている言葉から抜粋すると『すっからかんラブコメ』だそうです。そして文字通りで、名は体を表していますね。
・登場人物
主人公でメロンのオーナーの、超お調子者でトンデモ言動が目立つが実は過去に心に傷を持った、大地カケル。スチール缶のメロンジュースの『アキカン』で、缶状態と少女状態の2つの姿を持ちカケルとのキスで缶状態から少女状態になれる自由奔放だが寂しがりやのメロン。カケルの幼馴染でカケルの心の傷を知る、エールのオーナーで民間企業スカイエアーグループの社長令嬢の天空寺なじみ。アルミ缶のスポーツドリンクの『アキカン』でなじみをオーナーに持つエール。カケルやなじみの同級生で自称”魔女”の東風揺花。影が薄くイジメラレ系キャラクターで、いつもナチュラルに周りのみんなから酷い目にあわされるカケルたちの同級生の甘字五郎。そして『アキカン』を巡る話の黒幕的存在の国家公務員の男屋秀彦。その部下の木崎愛鈴。
敵役として今巻限りの登場人物としては、ぶどうジュースの『アキカン』のぶど子が登場、て、とこですね。
・シナリオ
ファーストキスはメロンソーダの味!?ある日、大地カケルが飲もうとした缶ジュースが、突然女の子に!わがままなメロンソーダの「アキカン」・メロンのオーナーになってしまったカケル。学校に通いはじめたメロンの存在にカケルの幼なじみ・なじみの気持ちは複雑。さらに「アキカン」たちが戦いあう「アキカン・エレクト」がスタート!戦いたくないカケルを尻目に、メロンは戦闘意欲充填満タン!前代未飲のすっからかんラブコメ開封。(7&YHPより抜粋。)
・感想
非人間と人間のラブコメディ―――これだけ聞くと甘酸っぱく切ない悲恋話、みたいなイメージを持ちますが、さに非ず。この作品の内訳はラブ度3、コメディ度6、シリアス度1くらいで、かなり笑いに走る構成でしたね。
兎に角、地の文を担当しているカケルの発想とその行動力に吹き出さずにはいられませんでした。世間一般の学生がいつもこんな事ばかり考えて発想できるのだとしたら、日本の未来は安泰だけどお先真っ暗、というなんとも矛盾した印象を覚えずにはいられないでしょう。
メロンのツンデレっぷりもよく書かれていました。強気だけど寂しい少女。そんな立ち位置ですが、それだけではなく『まだ感情を理解しきっていない』という点が、彼女の魅力を増していましたね。それは嫉妬なのに嫉妬を理解していない。それは愛情なのに愛情を理解していない。だから、辛く当たる―――そのいじましさは、見守ってあげたくなります。
そしてバトル。シリアスに当たる部分。これは中々扱っているものは重たいですね。『意思を持つ者は人間なのか、人間だから人間なのか?』相手を倒す、殺すとは相手が生物学的に人間でなければ人殺しではないのか?など、かなりヘビーな話題を取り扱っていたりします。またそれだけではなく、アキカン同士の戦いにおいても力押しに見えて知略戦を仕掛けていたりと、一方通行ではない二重の楽しみ方が隠れていて面白かったです。
総じて鑑みるに、これは結構『当たり』ではないでしょうか。絵良し、内容良し、ということで、そう損はないと思います。鈴平ひろさんの美麗な表紙、且つ作中では漫画的な表現を前面に押し出したモノクロ挿絵は、可愛い女性を前面に押し出しながらも、カケルの行動による地の文や何てこと無い一場面に笑いを散りばめてある、良い意味で意表を突いてくれるこの作品のイメージをよくマッチしていると思います。