アスラクライン9

アスラクライン〈9〉KLEIN Re‐MIX (電撃文庫)

アスラクライン〈9〉KLEIN Re‐MIX (電撃文庫)

アスラクライン9 KLEIN Re−MIX

著者・三雲岳斗先生。挿絵・和狸ナオ先生によるハイスクール・パンクシリーズ作品の第8段です。著者の別著作としては「コールド・ゲヘナ」シリーズ、「i.d. (1) (電撃文庫 (0791))」シリーズ、「レベリオン―放課後の殺戮者 (電撃文庫)」シリーズ、後は単発?で「道士さまにおねがい (電撃文庫)」「道士さまといっしょ (電撃文庫)」なんてのがありますね。
・登場人物
主人公で重力を操る機巧魔神『クロガネ』の演奏者の夏目智春を中心に、クロガネの副葬処女で智春にくっついている幽霊もどきの水無神操緒、炎の悪魔で智春を護ろうとする美少女の嵩月奏、体の半分を機巧魔神のパーツで補った半人半機の智治たちの先輩である黒崎朱浬、メインはこの辺りで、サブキャラクターとして智春のクラスメートの樋口琢磨、大原杏、佐伯玲子、天才少女で飛び級で智春たちの学校に交換留学生としてやってきて行方不明の姉を捜していたアニア。副葬処女を失った元・演奏者の佐伯玲子郎、第2生徒会生徒会長の倉沢六夏、同会員の佐原ひかり、第3生徒会の会長で智春たちの上司にも当たる橘高冬琉、智春たちが所属する科學部部長の荽塔貴也。完全新登場キャラクターは操緒の姉の水無神環緒。こんなところでしょうかね。
・シナリオ
鋼色の機巧魔神の秘密を聞き出すために、操緒の姉、水無神環緒に会いに行く智春たち。しかし、ようやく捜しあてた彼女の居場所は、警戒厳重な女子大の学生寮だった。男子禁制の女子寮内部に潜入するため、智春が選んだ作戦とは!?宝探し、ファミレスでのアルバイト、ストーカー対策などなど幽霊憑きの不幸少年、夏目智春と仲間たちの暴走気味の日常を描く大人気スクールパンク。智春が新たな特技(?)も身につけて、サービス増量の第九弾!特別収録、スペシャル番外編もついてます。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この巻は、日々の中で起きたある共通する事柄に起因する出来事を短編で書きながら、重要な出来事に繋げていく短編連作+α、という形で構成されています。
ある共通する事柄―――それはズバリ、『女装』です。
主人公である夏目智春が、やんごとない事情や黒崎先輩にハメられたりして女装することになったいくつかの出来事を、短編連作の形式で書いてますね。初女装の話になる後輩のお見合いを円滑に断る為に智春が女装して見合い会場に行く、ということになる「砲丸」。借金返済のために黒崎朱理に紹介してもらったバイトに向かい、そこで女装してウェイトレスをする事になる「キャンペーン」。荽塔貴也科學部部長がストーカー被害にあい、また引き篭もりになってしまったのでそれを解消する為に智春が再び女装してストーカーをおびき寄せる作戦を取る「ストーキング」。朱浬の提案で佐伯家の別荘に行く事になるが、その代償に智春が女装していかなければならないという事態で智春の女装姿=夏目ともはのことを知らない佐伯玲子に正体がばれないように奮闘する事になる「チェリー」。前巻で加賀篝に示唆された謎の機巧魔神の正体を知るという操緒の姉、環緒に会う為にその消息を探る過程で智春がまたも女装することになる「メモリー」。それから完全番外編のおまけとして+αに相当する「アスラクラインP―ずっと君を見ていた―」。これは女装とか関係の無い、智春が中学生時代に体験したある不思議で悲しい出来事と実は〜とオチがつく話です。最後のアスラクラインPを除く、全てにおいて『女装』がキーワードになっていましたね。
今巻ではスラップスティックなギャグ話が多く、そのぶん、機巧魔神はほとんど出てきません。悪魔の力やらの超常的な現象/能力は少しだけ使われる事もある。といった感じでこちらも出番らしい出番はありませんでしたね。
ですが代わりに、智春が女装しての奮闘具合と徐々に慣れていっていたりしているなどの、そういった変化が面白く書かれていましたね。抵抗しつつも若干慣れ、女装を活用したり開き直ってたりしていてなんだかんだで智春が何度も女装するその過程は、やや御都合主義もありつつもそういう『出来事』を楽しむという点ではこれ以上無い別の意味での読者サービス?でもあったと思います。
この巻に収録されているのは電撃hpに収録されていたりした短編ばかりですので、その分メインストーリーの展開は殆ど無いというか牛歩の如き進展でしたが、収録されている内容は各キャラクターの魅力を掘り下げたりキャラクターの知られていない一面を描いたりしていて、メインストーリー/長編をより楽しむ為の予備段階/準備段階の巻としての役割なんかもあるな、と思いましたね。