刀語12

刀語 第十二話 炎刀・銃 (エントウ・ジュウ) (講談社BOX)

刀語 第十二話 炎刀・銃 (エントウ・ジュウ) (講談社BOX)

刀語 第12話『炎刀・銃』

著者・西尾維新先生。挿絵・竹先生の剣劇活劇時代劇シリーズの第11巻。
剣を使わずに剣術家と戦う流派「虚刀流」の七代目当主・鑢七花が、伝説の鍛冶師四季崎記紀の打った完成形変体刀12本と呼ばれる刀を、幕府の為にという建前の元、自身の野望の為に集める奇策士・とがめに同行して蒐集するという話。この巻はその結末が描かれています。
・登場人物
刀を使わずに拳を刀と見立てて剣術家と戦う「虚刀流」の七代目当主で主人公の鑢七花、ヒロインで自身の野望のために伝説の刀鍛冶師・四季崎記紀の作った完成形変体刀12本を収集する旅をしているとがめ。以上の2人がメインで、以前の巻で登場したとがめの幕府内でのライバルの否定姫、その配下の元忍者・左右田右衛門左衛門が、主な登場人物でしょうね。それらに加えて、毎回完成形変体刀の所有者、というのが出てきます。が、この巻は最終巻ということで、新登場のキャラはいません―――ということはなく。きちんと最後まで『完成形変体刀』の所有者が出てきます。最終巻で総勢新登場キャラは12人。家鳴幕府将軍、家鳴匡綱<やなり まさつな>を初めに、家鳴幕府直轄の剣士11人が登場です。最後の最後で大判振る舞いでしたね。
・シナリオ
虚刀流・鑢七花と奇策士・とがめによる伝説の完成形変体刀蒐集の旅は、否定姫の腹心・左右田右衛門左衛門の所有する最後の一本―――炎刀『銃』を前に、最後にして最悪の試練を迎えていた―――。
容赦なく、迷いのない”弾丸”に貫かれたとがめを、果たして救うことができるのか―――!?
西尾維新と竹が描く、時代活劇絵巻。
刀語、第十二話の対戦相手は、否定姫腹心にして元忍者、左右田右衛門左衛門!(裏表紙より抜粋。)
・感想
刀語最終巻。これにて12ヶ月連続刊行作品も完結。それだけに最後は大判振る舞いのバトル展開と、意外なことが多く起こる超速展開&生き残るはこれだけかぁと納得ながらも寂しさを思わざるを得ない結末。私たちが知る『正史』とは違う形で進んだ歴史―――『If史』とでも言う話の、ひとつの区切りですらないちょっとしたIf史の中の単なる一地方での出来事の、顛末が語りきられていました。
前巻ラストで衝撃の状態になったとがめ。そのとがめとの別離を経て、『自己防衛』『刀防衛』『とがめ防衛』この三題が効果を失ったこの巻で、七花がついにその本領を発揮する事ができるようになるとはなんとも皮肉な話です。
バトル大盤振る舞い―――それは、これまでの変体刀との再度の立会いにありました。炎刀・銃を除く完成形変体刀11本―――それらとの再度の対決。そのたびごとに七花―――『虚刀流』の真価をその都度ごとに再確認し、同時にこれまで『完成形変体刀』を持っていた所持者達は『刀を持ち、刀に持たれていた』のでありこの巻に出てくる最終十二連戦の相手のような『単に刀を持っている』所持者達とは一線を画す実力者達だったのだな、とこれまでの所持者たちの色んな意味での『強さ』を最後に再認識できた巻でもありました。そして最後の戦い。左右田右衛門左衛門―――炎刀・銃との戦い。炎刀・銃による連続精密速射攻撃に加えて相生忍法と相生拳術を駆使してくる右衛門左衛門を相手に、自縛であった三題を無くした七花の『奇策』が炸裂と、この十二連戦ではこれまでの全てを超えながら内包した戦法/展開が、七花に一種の哀愁のある様々な妙技を披露させていました。最後に相応しい連続激戦ながら、七花の成長によるそれらの潜り抜け様と、最大の敵となった右衛門左衛門を相手にした時の七花の戦法が、とがめがいないからこそ出来、許される戦法であり同時にこの最終巻だから許された戦い方だな、と。最後だからできる戦い方で戦う―――まさに、最終巻に相応しい展開、でしたね。戦っている相手の左右田右衛門左衛門についても、これまで影で暗躍しながらもその存在感は『不忍』どころか主張の激しかった右衛門左衛門だけに、その最後が華々しく、最後まで否定姫の為に生き、その内心を最後に七花に託し否定姫に伝えてもらうなどしていたのは個人的に良い幕引きで良かったと思いました。
そして超速展開。バトル大盤振る舞いにも通じるところですが、完成形変体刀12本との怒涛の連続戦闘と、その決着までの速い事速い事。分量で言うと「完成形変体刀11本:炎刀・銃」としてほぼ「1:1」くらいの割合でした。兎に角過去の変体刀との戦いは短くも納得の結果で終わっていて早かったです。平均して1ページ半から2ページで蒐集済み完成形変体刀との戦いは終わっていましたので。それだけに、最後の炎刀・銃との戦いはクライマックスに相応しく盛り上がっていましたが。
そしてラストの描写―――あれは意外でした。
七花がこれからどうするのか。否定姫と右衛門左衛門は全てに決着がついた後どうなるのか。これまでの登場人物たちで生き残った者たちはどうなったのか―――。
ラストエピソードというのは、それまで読んできた人達が最も関心を寄せるところだと思いますが、この刀語のラストエピソードとしては私は「この2人がこうなるか…」と、まったく驚きの結末を見せてもらいました。それでもラストエピソードの会話を見ている限りは意外と良いコンビの2人になりそうだ、とも思えましたが。
そういった点においては、最初から最後まで刀語という作品は『意表を突いて楽しませてくれる作品』だと思いましたね。
それでは、連続刊行12ヶ月達成おめでとうございます&お疲れ様でした、ということで、最後は本文からの一部抜粋で締めたいかと。

『―――なんて。
 最後はそんな締めで、こんなところから。
 対戦格刀剣花絵巻。
 世代交代時代劇。
 刀語の最終巻。
 刀語の―――おしまい、おしまい。』