レジンキャストミルク8

レジンキャストミルク〈8〉 (電撃文庫)

レジンキャストミルク〈8〉 (電撃文庫)

レジンキャストミルク

著者・藤原祐先生。挿絵・椋本夏夜先生によるほのぼの×ダークの学園アクションシリーズの第9作目で完結巻です。8なのに9なのは番外編が間に1個入っているからですね。
『虚軸』と呼ばれる世界と契約して、現実世界=実軸にその力を留める役割『固定剤』となった主人公や、その周りの人たちが、同様に虚軸の力を使ってくる敵との虚軸の能力バトルが繰り広げられる学園能力バトルアクションものです。

・登場人物
その場で武器を作れ、さらに戦闘中でも相手の手管や性質、能力などを解析して状況に応じた的確な武器を作れる虚軸「全一(オール・イン・ワン)」の固定剤・主人公の城島晶。そしてその虚軸「全一」であるヒロインの城島硝子、サブキャストは無数の子猫の群体で一己を為す特性を持つ虚軸「有識分体(分裂病)」とその固定剤たる柿原里緒、未来の可能性に干渉し一時的に対象への影響を巻き戻す事のできる虚軸「アンノウン(ゆらゆら)」とその固定剤たる佐伯ネア、精神に干渉して暗示的な能力を発揮する虚軸「目覚まし時計(ハラハラ時計)」とその固定剤…だったがその力を失い、前巻で敵として再登場した鷲野在亜にその存在を消された速見殊子、髪を媒体に発現し平面を飛び越える能力を持ち、あらゆる物を切り裂く力を持つ虚軸「壊れた万華鏡(ディレイドカレイド)」とその固定剤たる舞鶴蜜。主人公側、能力者はこんな感じで、他に一般人として晶の幼馴染の森町芹菜や敷戸良司、硝子の友人たちの姫島姫、直川君子、皆春八重、などが出てきますか。殊子は回想で出てくる、程度ですが。
敵側は晶の父で全ての元凶、城島樹とその妻で晶の母でもあるが今は機会の体となった城島鏡。そして自我を持つ虚軸であり樹が登場するまで黒幕だと思われていた「無限回廊(エターナル・アイドル)」。この面々による虚軸の力を使った能力バトル、そのラストバトルが繰り広げられる、といった感じですね。
・シナリオ
大きな犠牲の果て、森町芹菜と敷戸良司への接触に成功する晶たち。しかし、変わり果ててしまった芹菜を前に、晶はひとつの決断を迫られる。一方、自分たちの望む世界を作ろうとする樹と鏡、そして“無限回廊”もまた、行動を起こし始めていた。目前に迫る、最後の戦い。もう一度日常へ戻ってこようと誓う者、もう二度と戻らない覚悟を決める者、一抹の不安を抱えたままそれでも笑って過ごす者。それぞれが決意を胸に秘めたまま、その時は訪れ―“実軸”と“虚軸”たちの殺し合いが、始まる。大人気シリーズ、堂々の完結編。(「7&Y」HPの紹介文より抜粋。)
・感想
最終巻です。ということで、色々と一気に決着をつけていく巻でしたね。
ですがその分、少々詰め込んだ感じと言うか…一気に決着まで行ってしまうので、その間に起こった出来事が多様すぎて逆に一つ一つの印象が少し薄くなった印象がありますでしょうか。
良司と晶の確執とか、硝子が抱えていた晶に対する負い目とか、芹菜が晶を受け入れられるのかどうかとか、無限回廊と晶の対決、樹と鏡の二人の目的が果たされるのかとか、それらが一気に解決されていって、密度の高さがこれまで以上でした。そのため、最後の決戦などが今一歩短かった印象です。
ですが総力戦の様相は強く、まさに双方死力を振り絞っての戦いを最後に繰り広げていたな、というのは感じられました。未解放の虚界渦が無い以上、敵も味方も入り混じりながらの既に相手の種が割れている虚界渦を開放しての力と力のぶつかり合い。その激闘っぷりは、これまでの晶側もしくは無限回廊側のどちらかが、どこか相手を圧倒しながら進んでいた戦いとは違いどちらも対等な条件での戦いで、ラストバトルに相応しい緊迫感があったと思いました。
そして衝撃のラスト、でしょうね、この最後は。
樹と鏡との決着。晶たちの今後。その全てに傷が残り、それでも傷を抱えて生きていく…そんなラストは、ただのハッピーエンドじゃないだけにしんみりした感傷を最後に残しながらも、不思議と清々しさも感じさせてくれる最後ではないでしょうか。
そんなただでは終わらなかった、という意味で、楽しませてもらえた作品だったと思います。


そして後日談が書かれる最後の番外編2の「れじみる。JUNK」が12月に発売予定だそうで。最後まで楽しませてくれそうだなー、と期待です。