レジンキャストミルク7

レジンキャストミルク〈7〉 (電撃文庫)

レジンキャストミルク〈7〉 (電撃文庫)

レジンキャストミルク

著者・藤原祐先生。挿絵・椋本夏夜先生によるほのぼの×ダークの学園アクションシリーズの第8作目。7なのに8なのは番外編が間に1個入っているからです。
『虚軸』と呼ばれる世界と契約して、現実世界=実軸にその力を留める役割『固定剤』となった主人公や、その周りの人たちが、同様に虚軸の力を使ってくる敵との虚軸の能力バトルが繰り広げられる学園能力バトルアクションものです。

・登場人物

その場で武器を作れ、さらに戦闘中でも相手の手管や性質、能力などを解析して状況に応じた的確な武器を作れる虚軸「全一(オール・イン・ワン)」の固定剤・主人公の城島晶。そしてその虚軸「全一」であるヒロインの城島硝子、サブキャストは無数の子猫の群体で一己を為す特性を持つ虚軸「有識分体(分裂病)」とその固定剤たる柿原里緒、未来の可能性に干渉し一時的に対象への影響を巻き戻す事のできる虚軸「アンノウン(ゆらゆら)」とその固定剤たる佐伯ネア、精神に干渉して暗示的な能力を発揮する虚軸「目覚まし時計(ハラハラ時計)」とその固定剤たる速見殊子、髪を媒体に発現し平面を飛び越える能力を持ち、あらゆる物を切り裂く力を持つ虚軸「壊れた万華鏡(ディレイドカレイド)」とその固定剤たる舞鶴蜜。主人公側、能力者はこんな感じで、他に一般人として晶の幼馴染の森町芹菜や敷戸良司、硝子の友人たちの姫島姫、直川君子、皆春八重、などが出てきますか。

敵側は晶の父で全ての元凶、城島樹とその妻で晶の母でもあるが今は機会の体となった城島鏡。そして自我を持つ虚軸であり樹が登場するまで黒幕だと思われていた「無限回廊(エターナル・アイドル)」。今巻では以前無限回廊に同化された「あの人」が、敵役として復活してました。

基本、この面々による虚軸の力を使った能力バトル、といった感じですね。

・シナリオ
全ての“虚軸”を消滅させて世界の統合を図ろうとする城島樹。その計画の核となった城島鏡と無限回廊。家族が偽物だったのか、それとも偽物は晶自身なのか。心が揺らぐ中、それでも彼らの企みを阻止するため、連れ去られた芹菜を奪還するため、晶と硝子は反撃を開始する。しかし、晶の存在を憎悪する無限回廊もまた、既に次の一手を打っていた。無限回廊の許へと攻め込む晶と硝子。ふたりの留守をつき学校を襲う、新たな敵。それを迎え撃つ蜜や殊子たち―。思惑と策略が交差する戦い、その先に待ち受けるものは…!?完結へ向け、いよいよクライマックス。(出版社文庫紹介より抜粋。)
・感想
ほのぼの日常シーンと、無限回廊やそれが虚軸を宿らせた人、或いは城島樹と鏡との戦いのシーンとの対比がやはり上手いですね。ほのぼのはどこまでもほのぼの、シリアスなシーンでは鬱々とした無限回廊側の暗躍と晶が仕掛ける心理戦が水面下での静かな激闘として、真逆な面白さをそれぞれで見せてくれています。
晶と無限回廊の再戦では、晶と硝子が里緒たちと協力しての新しい力の使い方を示して、虚界渦「世界の終わり(カーテン・フォール)」を使わずとも既に無限回廊と対等以上に戦えていて、1巻からの成長が伺えました。
ですが今巻は、速見殊子の巻。これは間違いないでしょうね。
前巻ラストで彼女が受けた致命傷とも言える傷。その為に全力を出せない彼女が、晶が無限回廊との戦いに赴いた結果手薄となった学校を守るために、固定剤としての超人的力と元々供えた頭の巡りだけで無限回廊が放った多量の虚軸を抱えさらに狂っている鷺野在亜を相手に蜜と共同戦線で挑む姿は、虚軸の力など関係無い、彼女本来の強さを見せてくれていました。
そして彼女が蜜や姫、その他の全ての知り合いに様々な思いを語るシーンは、飄々としていた彼女がその裏でどれだけ世界を、彼や彼女たちを愛していたかを示し、その先にある結末を見た後で読み返せばその深さが実感できる言葉になりますね。
また気になるところとしては、蜜が虚軸「壊れた万華鏡」の虚界渦を開放できるようになったことでしょうか。虚界渦「絶対言語(バベルズ・バインド)」。言った事を現実にするという反則チックな能力ですが、一応正確さが現実に及ぼす影響力にもなる、というネックも抱えている為絶対ではないのがまだ救いでしょうか。一歩間違えれば物語そのものを崩壊させる能力を持ち出してくるとは、今後の著者の藤原先生の力量の見せどころ、と感じられました。残りは最終巻だけですが。
そして蜜が虚界渦を開放したことで、とうとう敵も味方も全ての手札が出揃った、という感じですね。確実な勝利を与える「伏せられた札」が無くなった事で、後は純粋な戦略勝負。どのタイミングでどの手札を相手のどの手札にぶつけるのか。それが重要になってくるだけに、次巻最終巻に期待が起こります。