鉄球姫エミリー

鉄球姫エミリー (鉄球姫エミリーシリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

鉄球姫エミリー (鉄球姫エミリーシリーズ) (スーパーダッシュ文庫)

鉄球姫エミリー

著者・八薙玉造先生。挿絵・瀬之本久史先生。第6回スーパーダッシュ小説新人賞での『大賞』受賞作品のようです。著者は受賞タイトル通りデビュー作。挿絵家はゲームの原画家でもあり、18禁のゲームなんかでいくつか原画を描いているようです。
・登場人物
主人公で複雑な立ち位置のお姫さまだが自由奔放で『鉄球姫』のエミリー。エミリー付きの護衛騎士で老獪なマティアスと、伯爵令息の護衛騎士アルバート。エミリー付きの装甲侍女(鎧で武装したメイド)のジュディとセリーナ。これらが主人公側、とでも言うべき立ち位置の人たちですね。
敵側はエミリーの命を狙う暗殺者の『亡霊騎士』たち。リーダーで元々貴族のお嬢様だったコンスタンスの護衛騎士でもあったマイルズ、元貴族令嬢で今は名を変えて亡霊騎士の身となったコンスタンス、マイルズとチームを組む亡霊騎士デリク、バジルといったところで。
・シナリオ
王女ながらも、通常の鎧の三倍の装甲を誇り、輝鉄と呼ばれる鉱石により爆発的に身体能力を向上させる鎧、大甲冑を纏い、鉄球を振り回す少女エミリー。弟王との玉座を巡る争いを避けるために、辺境に身を置くエミリーだが、なおも陰謀の手は迫る。弟王派から放たれた黒い大甲冑に身を包んだ暗殺者、亡霊騎士。その突然の襲撃が屋敷を襲う。エミリーを護るために命さえも懸ける護衛騎士、装甲侍女たち。美しき王女を巡る死闘の行方は…!?第6回スーパーダッシュ小説新人賞大賞受賞の重装甲ファンタジー小説、堂々開幕。(本書裏より抜粋)
・感想
見た目の華やかさに比べてかなり現実的と言いますか。リアルな展開が待っている作品でした。
『輝鉄』と呼ばれる鉱物で超常的な能力を発揮できるようになる―――という設定がありますが、苦難に際して危機的状況から一発逆転―――そんなヒロイックな展開はほぼありません。老獪な騎士は絶対的不利で戦うハメになった結果残酷な結末を迎えますし、未来ある若者が強敵との戦いの結果残酷な結末を迎えたりします。逆に知恵を絞り超常的な能力まで考慮に入れて策を持って戦いに挑み、結果的に勝利の難しい状態からでも泥まみれになりながら勝利をもぎ取ると言う現実さがあったりなど、そんな形で、ハードな展開が続く作品でしたね。
ですがその分、ノリノ軽いエミリー王女の言動とそれに振り回される周囲、という日常的なシーンとの対比がとても強く浮き彫りにされていて、キャラクターの魅力、展開の絶妙さと、かなりの高レベルで『読ませて』くれる作品になっていたと思います。会話もギャグ・テイストの部分はかなりテンポが良く、かと思えばシリアスなシーンでは緊張感を言葉からも感じられるような絶妙な間と地の文で書かれていたりして、流石は『大賞』受賞作品と納得できますね。
ですがやはり見た目の華やかさには騙されないように用心を、といったとこでしょうか。
幸せになって欲しいなぁ、と思うようなカップルが悲劇的な結末を迎えたり、生々しい戦場の残酷さで登場人物が次々に死んでいったりしますので、ハッピー・エンドでないと我慢できない、そういった思想をお持ちの方には向かないかと。