殺×愛7

殺×愛7―きるらぶSEVEN (富士見ファンタジア文庫)

殺×愛7―きるらぶSEVEN (富士見ファンタジア文庫)

殺×愛7〜SEVEN〜

著者・風見周先生。挿絵・G・むにょ先生によるバッドエンドまっしぐらっぽい鬱展開だらけのラブストーリー・シリーズ。この第8巻はその最終巻です。7でSEVENなのに第8巻なのは、最初に刊行されたのが第0巻でZEROだからです。ややこしいな。
この巻では世界が終わりを迎えようとする中、世界の終わりを見届ける役目である「オメガ」という存在として選ばれてしまった主人公・椎堂密と、世界を滅ぼす尖兵である『天使』を殺す事のできる対天使兵器(ルシフェリオン)の少女サクヤとの恋物語が、最終的な終わりを迎えるその直前まで書かれています。
サクヤへの想いを捨てたつもりで、恋人として守ることを誓った幼馴染・萌月来夏を、しかし密は天使の襲撃から守りきれず、目の前で死なせてしまう。しかも自分はオメガの力で生き、来夏の後を追うことも出来ない。密は絶望から全てを諦観し、終わっていく世界をその役目のまま、ただ見続けようとする。何があっても心を動かされず、ただただ諦観して見続けようと。そんな密の心を救おうと、サクヤは色々と行動する。増加する天使の襲来から必死で街を守り、休校してしまった学校で同級生や教師を集めて学校生活を復興しようとし、密に会いに何度でも家を訪ねる。その姿にやがて密の心は少しづつ動かされていくが、世界の終わりは既に間近にまで迫っていた。次なる人類の祖となるべく想像されたアダム。オメガである密の前に現れた彼は密に言う。もうじき世界の終わりが来る、天使による世界への一斉襲撃が起きる、と…。


殺すために恋をして×死ぬために愛しあう。


最終巻で、世界は終わるのか、それとも密の死によって世界は救われるのか…。

雑誌連載時のラストに+された追加エピソード「エンドロール」。賛否両論あるやもなれど、やはりハッピーエンドが物語において万民に愛される形。決して無駄ではないと思いますね。
世界崩壊を前にして荒む人々の中で、しかし懸命に生き、やがて穏やかな心と日々を取り戻していく人々もある姿は、人間の順応性と心の強さを強く感じます。
そして密とサクヤの、終わりが見えているが故のその一瞬一瞬に全てをかける愛。二人が擦れ違い、そしてまた二人の心がもう一度繋がった後の姿は、春の如く穏やかさを、夏の如く生命の輝きを、秋の如く移り行く時の儚さを、冬の如く寄り添う暖かさを感じる、まさにその全てが詰まっているように感じられました。
展開としてどんどん世界が終わりに向かい、これまで登場人物が次々に死んでいっていた鬱展開でしたが、この巻ではメインキャストの誰が死んだとかは無く鬱展開も最後を迎えて収まりましたね。小さなところでまた酷い目にあってる人もいましたが、ここまでが酷すぎるくらいだったのでそんなに酷い印象はなかったです。
悪点を少しだけ上げるなら、サクヤの対天使兵器としての力の源として『対天使機構(D−コントラクト)』なる存在が出てきますが、この名称の出現が唐突だった事でしょうか。サクヤの体の傷の理由でもあったようですが、いきなりサクヤがいきなり言い出すので突然さを感じずにいられませんでしたね。
総評して、最終巻らしく「ギリギリで保っていた世界が一気に崩壊し始め、それにより物語自体も全てが終わる巻」ですか。
卒業の日を迎え、密とサクヤがふたり相思相愛であることを互いに自覚し、短い間を恋人として過ごし、世界の崩壊に対して精一杯向き合い、そして終わりを迎えて…と、見事に綺麗に終わらせていました。
世界滅亡<カーテンコール>、その終わりの時に、密とサクヤが選んだ決断。その最後を、悲しい恋物語として始まり、幸せな恋物語として終わる物語を読んでいただきたいですね。