嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん

嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん 幸せの背景は不幸

著者・入間人間先生、挿絵・左先生。「第13回電撃小説大賞最終選考会で物議を醸した問題作」だそうです。その肩書き通り、これはかなり読む人によって評価が分かれそうですね。
一筋ではいかない主人公や登場人物たちはどれも魅力的ながら精神疾患を持つとされていて、言葉は悪いですが一種の「壊れた人間」と言う扱いづらい人物による物語は読んでいる間に眩暈にも似た酩酊感を覚えました。
「嘘つき」である主人公の「みーくん」は主に地の文を書いている存在ですが、その存在事態が言ってみれば嘘。ヒロイン的扱いの御園まゆこと「まーちゃん」は一番わかりやすく壊れていて、倫理観とか無視して子供を誘拐したり発作的自傷行為に走ったり「みーくん」に凄まじく依存していたりする。そんな2人が、町を騒がす殺人鬼と交錯したり過去の精神的外傷の原因となった事件をみーくんが回想したりしながら話が進んでいきます。これが、妙に中毒感があると言うか…気が付いたらこの一風変わった世界に引き込まれています。そう言った気がついたら目が離せない、と言うような吸引力がある物語が書けるのは凄いですね。
この物語は分かり易いミスディレクションをそれと知って楽しむのと、みーくんによる地文での言葉遊び、それと精神疾患者の心情を擬似的に模した思考/発想を読み娯楽とする物語でしょうかね。こう書くと内容的に不謹慎にも感じるかもしれませんが、一人の少年が自分なりの「幸せの形」を見つけようとする行動でもあるので、そう言ったところはこの「幸せの形」発見までのスパイス程度として見送ってくれれば、とも思いますね。
総評して、この作品は「あっけらかんとした暢気さの下にある狂気と変節への物語」でしょうか。
傷を持つ者たちがいる。傷を共有する者たちがいる。しかしそれぞれの傷に対する向き合い方は違う。
この物語は、そんな傷を持つ者たちそれぞれの生き方が交錯した時に始まった物語―――。