ゼロの使い魔11

ゼロの使い魔11 追憶の二重奏

人気シリーズでMF文庫Jの看板の1つ。著者・ヤマグチノボル先生と挿絵・卯塚エイジ先生による現実世界から主人公がファンタジー世界に転移してその先で繰り広げられるという展開の、ファンタジー冒険物のその第11巻で。
今巻は主人公ことサイトに色々と起こる巻でしたね。
前巻で隣国に国境越えの罪を犯して侵入し、囚われていたタバサを救ったルイズ、サイト、キュルケ、ギーシュにモンモランシーたちトリステイン魔法学院の同級生+αの一行。今巻はそこからタバサとタバサの母を連れて、トリステインに戻ってきたところから始まります。
タバサとタバサの母の姿を見て、何となく今まで思い出すことも無かった母の姿を思い出し、連鎖的に元の世界のことを思い出してホームシックに掛かりかけていたサイト。しかし今いる世界での責任や肩書きから得た役目、知り合った仲間たちへの責任感からそれから目を背けていた。だが、国境越えのことでお咎めを受ける為にルイズの故郷であるラ・ヴァリエール領に訪れルイズの母の折檻を何とか退け、ルイズが家族と和解した時、再びその家族の姿に、元の世界の感傷を覚える。ルイズの姉・カトレアにそれを見抜かれたサイトは、カトレアの包み込むような母性に母の姿を見、一時の安息を得る。そういった経緯を見ていたルイズからヤキモチを焼かれながら再びルイズたちと共に、トリステイン魔法学園へと戻ることになるサイトたち一行。そして新学期が始まり、少しサイトへの対応が変わったタバサや、サイトの気を引こうとするルイズとギーシュの気を引きたいモンモランシーがキュルケに女性としての立ち振る舞いを学んだりとしていたある日、ルイズたちはアンリエッタ女王から新しい任務を賜る。かつてサイトの瀕死を救ったハーフエルフにしてルイズと同じ『虚無』の使い手、ティファニア。彼女の保護と、王国への移住とそれまでの護衛。だがその道程も簡単には行かなかった。良かれと思ってした、ティファニアによるサイトの『使い魔』としての本能の消去。そこからくるサイトの心情の変化と、ルイズの心の揺れ―――。不安定な2人の前に、サイトとはまた別の『虚無の使い魔』ミョズニトニルンが、新しいアーティファクトを携えて襲撃してくる。その時、ルイズは『虚無』が使えなくなっていた。果たしてこの戦いの行方は…!? と、行った所で。
かなりダイジェスティブに書きましたが、根本的には「サイトの心情について」と、毎度少しだけ挿入されている「ルイズのサイトへのアプローチ」それからこの巻では「タバサの心境の変化」も、前巻に続いて書かれていたと思います。
ルイズたちのいる世界へ召喚されて以来、なし崩しでサイトの心情に登らなかった郷愁の気持ち。今巻はそれにスポットを当てていますね。突然見知らぬ世界へ飛ばされて、平然と対応していたサイトの姿。その理由―――それが語られています。
と、同時にやはりサイトはサイトということを見せてもくれます。ティファニアの虚無魔法により、ルイズに感じていた慕情の大半を無くし、拘っていた責任感も無くなっても、それでもサイトが選ぶ道は同じ―――。その姿は、やる事をわかっている男という感じで物語冒頭のサイトと通じながらもどこか成長を感じられましたね。
総評して、この巻は「家族愛の巻」でしょうか。
ルイズとラ・ヴァリエール家の父母に姉2人の家族と、衝突しながらも理解を得て子供の頃には嫌いだったラ・ヴァリエールの家に居場所を見つけるルイズ。そんなルイズ一家の姿に郷愁を思い、周囲の思いやりもあって自分の中でその郷愁にケジメをつけるサイト。
これまでの巻が目に見える戦いだとして、巨大なゴーレムや七万の大軍といった圧倒的なもの、物理的なものが敵役だったとしたら、今巻の敵といえるのはサイトやルイズの自身の心、といった精神的な戦いが主軸にあったかと思いましたね。