アスラクライン7

アスラクライン〈7〉凍えて眠れ (電撃文庫)

アスラクライン〈7〉凍えて眠れ (電撃文庫)

アスラクライン7 凍えて眠れ

著者・三雲岳人先生。挿絵・和狸ナオ先生によるワンダースクールパンク物語、とでも言えばよいでしょうか。ただのスクールパンクと表現するには機巧魔神やら悪魔やらと出てくるのでどうかとも思うのですが。
幽霊着きと言われていた主人公・夏目智春。彼が高校に入学して幽霊付きと言われていた原因である智春の幼馴染、水無神操緒が彼に憑いている理由が明らかになる第1巻から始まり、7巻までの間に智春が駆る機巧魔神や悪魔の少女でヒロイン・嵩月奏が登場したり、他の悪魔や機巧魔神が登場したり、学園に所属したりしなかったりする様々な異能者が登場したりしています。そして今巻では、そうして登場した人物の中でも第1巻から登場していた1人、氷を操る機巧魔神を駆る演奏者・佐伯玲士郎とその副葬処女・哀音の話がキモになってきます。
夏休みを前に修学旅行に出る玲士郎や朱浬たち2年生。何事も無く修学旅行を終えて帰ってくるかと思えた正にその直前。機巧魔神と悪魔の力を同時に有する禁断の存在、『魔神相克者<アスラクライン>』の加賀篝隆也の襲撃を受け、乗客操縦士含め300人あまりを彼の機巧魔神の時間静止能力により「空の上に固定され」て、人質に取られてしまう。彼の要求は1つ。機巧魔神用の新型スタビライザ「イグナイター」を、智春と奏に持ってこさせること。果たして智春と奏は、玲士郎や乗客たちを救い出すことが出来るか? といったところで。
今巻での一番の見所はやはり、機巧魔神『翡翠』と玲士郎・哀音の姿でしょうか。
副題から推察も出来ますが、この巻ではスポットが哀音とその周りを取り囲む人たちに当てられ、智春たちよりずっと前から機巧魔神の力を行使していた玲士郎と哀音が主役級として扱われていますね。あくまで主眼は智春なのですが、物語としてその中心にいるのは玲士郎と哀音、といった感じで。
そしてそれとは別として。智春中心の視点では相変わらず、高月奏を相手に青春している智春の姿が微笑ましくも羨ましいくらいだなコンチクショー!でした。右を見れば巨乳控えめ美女嵩月奏。左を見れば溌剌元気少女水無神操緒。後ろはツンデレ同級生佐伯玲子。まったくどこまで女性に囲まれれば気が済むのか!(ぉ
今巻はスポットとしては佐伯玲子に当たっている事が多かったですが、嵩月奏に関しても重要な事が明らかになっていましたね。玲子はあまり語られなかった日常生活的なことが書かれ、魅力の掘り下げが行われていました。奏に関しては、機巧魔神の使用に関して智春に強硬に使わないように言っていて、その態度の意味が巻末で少しだけ明らかになるに連れて高月奏という少女が夏目智春のことを本当に大事に思っているのだな、と思えましたね。副葬処女の意味を知る彼女は、彼を悲しませたくないが為に智春に機巧魔神を絶対に使わないことを懇願する。だが智春としては自らの身を守るためにも、機巧魔神の力は必要。そのジレンマに悩んでいる奏の姿は、後になって読者として智春と同じタイミングでその理由を知った時、その可憐さと一人で抱えていた強さに感嘆すること然りでした。
機巧魔神を行使すると言う事。副葬処女の意味。元演奏者<エクスハンドラー>の烙印が意味するところ。そういった今まで見えていたけど意味がわかっていなかったところが、この第7巻でまた1つ明かされます。
物悲しさを覚える最後の姿。失った男の背中、残していってしまった女の微笑み。その意味を思う時、この巻がひとつの別れの巻だったことを痛感せざるを得ません。
総評して、この巻は「一人の男と女の決意の巻」そう感じました。
アイネ・クライネ・ナハトムジーク―――モーツァルトの小夜曲。元来の意味が「恋人の部屋の窓の下で恋人への想いを伝えるための曲」であり、哀音の名の元となったその曲名が示すかのように、玲士郎と2人で判り合い、その先にある出来事も覚悟の上で何でも無いことのように皆を救い、ひっそりと舞台から去っていった玲士郎と哀音の有り様。
―――その姿、凛々しくして雄々しく、華麗にして豪胆。
第一生徒会会長とその副葬処女の最後の姿。是非とも目にしておいてほしい一冊でした。