マイフェアSISTER

マイフェアSISTER 姫君、拳を握りすぎです。

著者・竹岡葉月先生。挿絵、きゆづきさとこ先生による異世界の幼女とその接待役として宛がわれた少年とのボーイ・ミーツ・ガールストーリーでしょうか。
舞台は異世界と言うものの存在が認識され、交流もあり行き来さえ可能と言う世界。そんな舞台で、異世界からきた10歳のお姫様の接待を従妹のミキの良すぎる待遇と言う甘い言葉に騙されて引き受けた主人公・江戸川師走は、お姫様に遭遇して早々にお姫様からのキックとパンチとキスという出迎えを受ける。それはお姫様の兄の悪戯を本気にした結果の行動だった。そんな真面目でだからこそイジられやすいキャラクターの異世界のお姫様・アネモネと師走は、2人で失踪したアネモネの兄の侍女であるカーナを捜す。突然帰ってきた師走の実の妹、世界的女優MUTUKIの本名江戸川睦月やカーナを捜すうちに再開した師走の昔の知人・梅迫元などと関わりながら、アネモネと師走は少しづつカーナの居場所を捜していく。果たしてアネモネと師走は無事、カーナを見つけ出す事が出来るのか? といったところでしょうか。
主人公の江戸川師走はかつて役者だったが、ある時、心の傷―――トラウマを持つことになり役者生命を捨てた少年。過去に影がありつつ今を生きるのに必死になっているあまり、見るものに過去を気にしすぎているように感じさせられる危うさを持った少年像の主人公です。ですがその少年が過去と対面しながら、もがき苦しみながらそれを受け止めようとする苦悩が、この作品の魅力―――見所かとも思えますね。
ヒロインであるアネモネは、権威を失いつつある異世界の王族の姫君。代々崇め奉ってきた「竜公」という存在を奉ずる巫女であり、その「竜公」の力を宿し行使することができる存在。だがそれゆえに今回は全てを知らされずにいて、まさに「プリンセス」として扱われている辺りに人の優しさと、何も知らないままでいて欲しいという保護者側の『エゴ』が投影されているように感じ、保護するということの難しさを感じましたね。
この作品、裏事情みたいな物が幾つも散りばめられていて、それらが複雑に絡み合って登場人物たちの多くの思惑に絡んできます。梅迫元が8年越しで師走と再会した後で起きる裏事情。ミキ姉が師走にアネモネを紹介した裏事情。カーナがアネモネの兄の元から失踪した裏事情。師走が役者だった過去を捨てることになった裏事情。そういった様々な要因が絡んできて、物語を複雑にし全てが見通せない謎を産みながら、物語が形作られています。そしてそれらは最後まで読むと、大体が解かれていく、と。
総評して、この作品。「兄妹の優しさと、過去の傷が産んでしまう悪意の物語」といったところかと感じます。
妹を愛するが故に妹を案じる優しさ故に妹の暴走を見過ごす兄のその意図。かつて自らの弱さ故に負った傷とその傷がつけた他者のまた別の傷。その傷が産み、月日が育てた人の心が起こす事件。
師走という主人公が過去と対面する様を、読者として共に受け止められればと思う一冊ですね。