文学少女4

“文学少女”と穢名の天使 (ファミ通文庫)

“文学少女”と穢名の天使 (ファミ通文庫)

文学少女と穢名の天使

野村美月先生著、挿絵竹岡美穂先生による、毎回何かしらの文学作品をモチーフにして主人公・井上心葉を語り手に話が進展していき、それを本を食べるほど愛している文学少女天野遠子が解決への道を示すシリーズの第4作目。
今回のモチーフは色々と出てきましたが、基本はオペラなどで有名な「オペラ座の怪人」。それから「椿姫」「トゥーランドット」と、3つかと。オペラ劇などになっているものが中心でしたね。
ストーリーは鞠谷敬一音楽教師と心葉とが、クラスメイトの琴吹ななせを通じて知り合うことから始まります。ひょうきんな鞠谷教師と交流していくうちに、ななせとも次第と会話をする機会が増えますが、ある時ななせの友人の『水戸夕歌』が失踪していることが判明し、心葉はななせを元気付ける意味もあって水戸夕歌捜索を始めます。ですが水戸夕歌は見つからず、また謎の後輩が意味深な忠告をしてきたり、心葉のトラウマになっている過去の傷に触れてきたりとしたりで謎が山積みになっていきます。また、足取りを掴みかかったりもするのですが、そのたびに再度行方を晦まされてしまいと、捜索は難航します。そうするうちに、何故か鞠谷教師が突然退職したり、夕歌の家族に起きた不幸がわかったりで、状況は次々と変わっていきます。そして最後は――― といった感じで。
水戸夕歌を探すうちに心葉は彼女という一人の人間が辿った苦悩を追いかける形になり、次々と浮上するその事実をななせに告げるべきかどうかなどで、大変に苦悩する姿が印象的でした。真実を告げるべきか、知らぬままでいさせるべきか。「ぼくは、知りたいのだろうか?それが、どんなに辛い真実でも?」というオビに書かれていたキャッチコピーの通りに、とてもデリケートな問題も多く、心葉同様に読み手としても悩ましいと思うこと多々でしたね。
総評して、今回はななせという少女と現実との戦い。そしてそれを助けようとする心葉を通じて感じる「『真実を知る痛み』と向き合う辛さ」。そういったとても精神的な問題や苦悩との対峙が書かれていたと思いました。
複雑に絡み合う人間関係。それぞれの人間が持つ、それぞれの過去が絡まった結果招く、擦れ違いの悲劇。だが、悲しさの残る物語の中に散りばめられた各々の愛情が、悪意なく引き起こされた物語を退廃的で悲しいながらも輝く一点を持つ物語として組み上げています。あたかも、「オペラ座の怪人」において怪人ファントムがクリスティーヌを愛するあまりに犯罪を起こし、しかし最後にはクリスティーヌに選ばれずに舞台を去っていく。けどもファントムのその愛が、暗く退廃的で愛する女性のために暴走した男の顛末を書いたと穿って言えば見える「オペラ座の怪人」を、一人の男の悲しくも愛情深い物語として昇華し人々に忘れられないものにしたように…
そんな、悲しさと心に染みる愛を、感じられると思います。