撲殺天使ドクロちゃん9

撲殺天使ドクロちゃん〈9〉 (電撃文庫)

撲殺天使ドクロちゃん〈9〉 (電撃文庫)

撲殺天使ドクロちゃん

これも電撃文庫の看板シリーズのひとつでしょうね。おかゆまさき先生によるギャグ小説です。
ベースに某猫型ロボット漫画的設定を敷き、その設定の一部を『天使』や『天界』といったものに置き換え、主人公である眼鏡少年=草壁桜が、某猫型ロボット=ドクロちゃんに振り回されて陥るor起こすor巻き込まれる出来事にドタバタしている様子を書いた物。それがこの作品だ、と言ってしまえるでしょう。
毎巻数話の短編的ノリで話が続いてきたこのシリーズもそろそろ大詰めらしく、クライマックスエピソードに突入!と銘打たれていますね。
今巻は、未来の世界こと天界でカミサマに代わり神域を侵すニンゲンを排除する為の機関『天使による神域戒厳会議』通称「ルルティエ」が、草壁桜による未来の改変阻止の為、今回は変則的な手を使ってくることがラスト・エピソードでその前に2編、短編が挿入されるところから始まります。
まず最初の一編が、ルルティエの議長である「バベルさん」が、娘であるサバトちゃんが桜くんにお世話になっていることのお礼として桜くんの家に来訪し、桜くんに天使のアイテムを使わせてあげるのだが、その効果は桜くんからしてみれば不可解極まりない物で…の、「ビューティフルドリーマーだよ! ドクロちゃん!」
次が、タイムカプセルを埋めることにした桜くんとドクロちゃんザクロちゃんサバトちゃんに桜くんのクラスメイトたち。だがそのタイムカプセルを埋める作業中、うっかりと一枚の手紙の中身を見てしまう。そこには、桜くんに宛てたと思わしきラブレターのような内容が書いてあったからさぁ大変。桜くんはその手紙の主と思われるザクロちゃんを意識してしまい、ドギマギ…そんな折、ザクロちゃんから「話したいことがあります」と言われて…果たしてこの結末は!?の「時をかけるラブレターだよ! ドクロちゃん!」
そして最後を飾るのが、ある日突然現れた桜くんとまったく同じ姿を持つが、桜くんより「できた」人間である『光の桜くん』。彼は未来の世界から刺客として送られてきたのだ!その目的は、この時代の桜くん―――『影の桜くん』と、自身である『光の桜くん』とが入れ替わること。瞬く間にクラスメイトたちの信頼を勝ち取り、影の桜くんはドンドンその存在感が薄れていき、みんなに忘れられていく…。果たして桜くんは、光の桜くんを打ち破り、自分を取り戻す事ができるのか!?の「最終話 抹消、草壁桜だよ! ドクロちゃん!」の以上3編で構成されています。
終始ギャグで始まりギャグで終わっていて、さらに独立したものだったこれまでの作品とは違い、今巻はストーリー的な繋がりがそれぞれの短編にあり、ギャグだけで無く珍しくシリアスなシーンが目に付きます。
これまでの既刊分でもシリアスなシーンはあったりしましたが、最後に挿入されて「良い話」的に終わらせるためのものだったりして最後の味付け的な印象が強くて全体イメージとしてはやはり『ギャグ小説』だったのですが。
これまでの刊行分とは違い、今巻は当初の2編も含めて、シリアス傾向が強いですね。
そして最後には次巻が最終巻としか思えないような一文を残し、今巻は終わりとなっています。最終回に向け、段階的にシリアスになっていくと言えましょうね。

最後に向けてギャグではなくシリアスにもっていく辺り、ストーリー性を持ちながらも昇華されていなかったそのストーリー部分をまとめようと動いているのが見えます。

総評して、今回はギャグ部分が今までよりも少しだけ薄めです。といってもギャグの傾向が変わったとかではなく、シリアス部分の描写などで紙面を使っていて、その分ギャグの度合いが少し下がっている、と感じる程度のもので。
ギャグで進んでいくところでは遜色無く面白い掛け合いを見せてくれていますし、シリアスなところでは主人公が同一人物なのかと思えるくらいに機転が利いたりしています。軽快に読んでいけるところはギャグもシリアスも変わりません。
なので、既刊分同様、不条理バイオレンスギャグ小説とでも記せば良いのですかね?そんな、読んでいて『面白い』小説の顔は失っていませんので、これまで継続して買ってきた人も安心して買って良いと思います。