EX!

EX! (GA文庫)

EX! (GA文庫)

EX!

作者「織田兄弟」による、GA文庫初期の作品である「ハノン」以来になる新作品です。
この作品は基本的には超王道的な展開と結末が待っています。ですが、その分安心して読めるというか、変に気をてらっていないところが良いですね。純粋にキャラクター同士の掛け合いや、あからさまな敵とかを楽しめます。
ストーリーは悪の組織の元大幹部と正義のヒーローとの間に生まれた主人公「大和一哉<やまと かずや>」が、その出自ゆえに得ている超人的能力の使いどころを求めて母の薦める自由に力を使える学園に転校するところから始まります。
その学校は、元々母が属していたが滅びた悪の組織の生き残りたちが組織した、人の中で生きていこうとする「改造人間」たちの為の学校。無論改造人間たちは超人的能力を当然の様に有していて、一般人より多少凄い程度の一哉など歯牙にもかけない性能を見せる。
転校早々に自信を打ち砕かれ四苦八苦しながらも学園生活を初め、多名内由良という友人も出来、やがて順応していく一哉。
だが、元々が悪の組織集団の生き残りの集まりである為に、正義の味方に狙われることに。
襲い来る正義の戦士「エクスター」の、風を操る「エクスターストーム」。
一哉たち学園生は、学園を守ることができるのか…!? といったところですか。
この作品は、根幹にあるストーリーが秘密を持つ少年が頑張る女生徒を救うために悪玉をぶち飛ばす、という勧善懲悪的な要素が強い作品です。
が、この作品の面白いところは善悪の立場や『お約束』的な部分を逆にしてあるところで、一見すると主人公側が悪で倒される側、敵側が正義となっているのです。
人間に奉仕活動を行い、ヒーローたるエクスターたちから学び、周囲の人たちの信頼を勝ち得ながら少しづつ自分たちの生活圏を広げていくという方針で活動する改造人間たちを、「悪の組織の生き残りだから」というだけの理由で一方的に攻撃を仕掛けるエクスターたち、と、善悪の立場が逆転しています。
また、『S・O・M(スフィア・オブ・マイン)』―――通常空間に自分に有利な異空間を作り出し、そこに相手を引き込んで一方的に攻撃する―――ぶっちゃけて言うとギャバンシャリバンシャイダーなどの宇宙刑事シリーズで使われていたいわゆる「魔空空間に引きずり込め!」的な能力が、「ヒーロー」側の最強の技として記されていますしで、立場的な逆転が面白いです。
総評して、この作品は「行き過ぎた正義と真摯な悪との戦い」、といえば良いのでしょうか。
懸命に生きようとしている改造人間たちを相手に、自己の快楽を追及した結果ただの殺戮の如く改造人間を殺しに来るエクスターたち。
仲間を大切に思い、時には倒したエクスターを二度と来ないという口約束だけでも許し、解放しようとする改造人間たち。
ただ「正義」と名乗る者と「悪」と呼ばれようとも懸命な者たち。
あなたが共感を覚え、信頼したいと思えるのはどちらですかね…?