神曲奏界ポリフォニカ/えきさいとぶるぅ

神曲奏界ポリフォニカ・えきさいとぶるぅ

シェアード・ワールドポリフォニカ・シリーズの新シリーズで通称を『青ポリ』。
作者はまぶらほ他最近急速に色んな媒体で作品を新発表し始めた築地俊彦先生で、イラストレーターが「ゼロの使い魔」「ハノン」「デモン・パラサイトリプレイ 悪魔憑きの目覚め」同リプレイの「悪魔憑きの放課後」「悪魔憑きの学園」シリーズで有名な兎塚エイジ先生。
ストーリーは、精霊のほうが人間より力がある=偉い のだから、精霊が人間に奉仕するような今の体制ではなく、人間こそが精霊に奉仕すべきだ!を指標に上げる「精霊至上主義現実派」に属する上級精霊「ハイディ・ウル・コーディレフス」が、著名な神曲楽士である「シーヴァル・リグルス」を精霊に奉仕する人間の先駆けとするべく、同じ精霊である「ルーファ・ワルトゥムシカ・トロイス」を尖兵代わりにリグルスの元へ送ろうとするも、送る先を間違えリグルスの兄、「シーヴァル・クルナ」の元へやってしまうことから始まります。
クルナは神曲を奏でることはできるも神曲楽士資格は無く、また真面目には演奏しないうえに日々の生活を何でも屋で過ごす社会の下のほうにいる駄目人間。間違ってとは言えそんなクルナの元に来てしまったルーファは、クルナに良いように言いくるめられ、クルナに奉仕して生活する事に。
ルーファを追ってきたハイディやルーファの友人、「ササヤ・マッシア・エッジウス」とも知り合うクルナ。
そんな2人は、ある時、盗品売買の尻馬に乗り一攫千金を狙える状況になる。
クルナは、ルーファや仲間のハイディ、ササヤを巻き込んで勝負に出るが、その結果は如何に…? といった感じですかね。
このポリフォニカ・青シリーズ、これまでの赤や白、黒とは毛色がまったく違います。
まず神曲奏界なのに、神曲が殆ど出番ありません。
盗品売買の盗品であるものが伝説級の神曲楽譜であり、それを使えば精霊を強制的に従えさせる事が出来る、と言うところで出ているくらいです。でもこれも赤シリーズで神曲楽士の始祖たるダンテ・イブハンブラ作曲の「地獄変」「天国変」といった物が出ていますので、目新しいものじゃないですしね。劣化コピー?みたいなもので効果も低いと見えますし。
また、神曲に関しての掘り下げも浅いです。
赤、黒、白、ともにシリーズ的に見れば神曲に関しての描写というか背景で、
赤は直球的な精霊と楽士との純粋な愛情を力に変える関係で、神曲描写もフォロンの心の内を単身楽団を使った表現という形でまさに「ポリフォニカの原点」という感じで
黒はマチヤとマナガの信頼関係が原点で、サスペンス風味で刑事事件を扱いながら人の心の悲しさと現実を見つめ、どうしようもないやるせなさや嘆きという点を、ブルース・ハープで繊細にしてしんみりと奏でるという印象を
白は過去の話として、未熟な楽士候補のスノウドロップと白の聖獣ブランカとの不器用な信頼を、時に過激に、時にコメディチックに、コントラバスや楽器を使わない『歌』で神曲を描写したりされていますが
青は、はっきり言って神曲奏界でなくてもできることを、神曲奏界でやっているだけ、という印象を受けました。
楽器こそ三味線という和楽器で、赤での鍵盤楽器、黒での管楽器、白での弦楽器に続いての新しい形態ですが、それを使って奏でるのは神曲ではなく誰でも苦手だったりする「異音」で
さらにそんな異音で精霊を無理矢理従えさせ、しかし契約はせずこき使い、事件が起きて切羽詰った時にはルーファが精霊としての力だけで解決したり、と
神曲楽士の存在理由がこの巻に限定してはありませんでしたので、正直、導入部分とはいえもう少し神曲楽士と精霊との同調も見たかったですね。
一応、クルナの過去を見るに超天才的な才能を持つ楽士であり、精霊に対して絶対的な立場にも成り得る神曲奏者なのだろうが、それゆえに神曲そのものに対して疑問を持ってしまい神曲を奏でたがらなくなったのだな、と推察できる部分もありますので
今後でその辺りがどう生かされるかで、今回の感想は180度方向転換したものになるかもしれませんけれど、今のところは………

総評して、現在の青ポリは精霊と神曲楽士の関係は斬新ですが、それだけというか…
神曲楽士と精霊との、コミュニケーションの手段として神曲を使った交流劇がポリフォニカシリーズの根底に流れるテーマかな、と感じていましたので、今後の刊行で変化が見れなければ少し興醒めというか見当外れな感じを受け続けるのではないですかね…
いやまぁ、感じていることとか全部、私個人の勝手な印象ばかりなのですけれども………