ミミズクと夜の王

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

ミミズクと夜の王 (電撃文庫)

ミミズクと夜の王

第13回電撃小説大賞『大賞』受賞作品。これで第13回電撃小説大賞関連は全て読了です。
ストーリーは、今まで自由無く生活していたが突然自由になった「ミミズク」という少女が、「魔物に自分を食べてもらおう」と考え魔物の住む森にやってくることからはじまります。そして森の館に住む夜の王こと「フクロウ」と交流することから入っていきます。
夜の王に食べてもらえなかったミミズクは、魔物である「クロ」に森の掟の様なことなどを聞き学びながら魔物の森で生活をし始める事になる。
フクロウと交流を持ちながら生活するミミズクだったが、やがてそこに『王国』の聖騎士が率いる魔王討伐隊がやってきて屋敷は焼き討ちにされ、フクロウは捕らえられてしまう。ミミズクはその際に騎士団に保護され、聖騎士アン・デュークの庇護の下、アンディの妻のオリエッタたちと一緒に城と街で生活することに。その折に記憶を失いフクロウたちのことも忘れ、クローディアス王子とも知り合い色々な知らなかった世界を知りながら笑顔で生活するミミズクだったが、やがて…と こんな感じで物語は進みます。
この物語は絶望の果てから始まる1人の少女の崩壊と再生の物語、とカバー折り返しにあるのですがまったくその通りと感じましたね。
主人公であるミミズクのあり方がとても衝撃的というか、戸惑うほどにエキセントリックな言動が目立つキャラクターとして当初書かれているのですが、その理由として書かれる過去やそう至るまでの心の動きが緻密で、とても丁寧に組み上げられています。
悲しい過去とそれを悲しいとさえ考えられない心。その心が記憶を失い砕け、再び組み上げられた時、ミミズクが選んだ結末は―――。
また、ミミズク以外もそれぞれがキャラクターを確立しています。
冷たくも優しい夜の王フクロウ、異形ながらその心は人同然の魔物クロ、聖剣に選ばれたが優しさと厳しさゆえに昼行灯同然に過ごす聖騎士アン・デューク、聖剣の巫女としてアン・デュークの妻として気高く優しいオリエッタ、厳格で国を第一に考えながらも息子を気にかける国王ダンテス、四肢が不自由故に心を閉ざしながらも友を欲していたクローディアス王子。
それぞれのキャラクターが自分の意志に忠実で、その意思を通す為に物語で様々に動いているのがわかります。それだけでもこの物語が見事に組み上げられていると私は言い切れますね。
この物語、雰囲気というか『感じ』がジブリ作品のような童話的なところがありますが、世界そのものを狭めてしまわずそれがまた幻想的で局所的ながら閉塞を感じず、広い世界の一地方で起きた、小さな小さな物語、という形になっています。
総評して、この作品は2時間半ほどの映画の様なイメージです。
小さな少女の生まれ変わりの物語。特異なギミックやトリックがあるわけでもない、基本に流れるのは魔王を討伐する騎士という形ながら、そこにミミズクや聖騎士とその妻、討伐を命じた王とその王子、そして魔王側の存在といった登場人物たちが繰り広げる繋がりが、ただのありふれた童話をみごとな物語としていると思いました。
―――この作品は、批評がし辛いです。なぜなら、この作品は頭ではなく心で感じ読む物語だと思うからです―――。