扉の外

扉の外 (電撃文庫)

扉の外 (電撃文庫)

扉の外

第13回電撃小説大賞「金賞」受賞作品。
修学旅行に向かう途中だった学生集団2年4組の団体は何かの声で目が覚める。すると、目覚めた場所は修学旅行への途上ではなく見知らぬ部屋に閉じ込められていた。そして声の主―――『ソフィア』により、説明を受ける。世界が滅亡したと。2年4組の生徒たちが選ばれた人間としてこのシェルターの中に入れられたのだと。そしてソフィアは私がココを管理し、その管理を受け入れるならば安全で快適な生活を約束する、と告げた。そしてもたらされる様々な恩恵と、部屋の前面で示されるゲームの如き勢力図。
ストーリーは、主人公、千葉紀之がそれを良しとせず真っ先に管理を拒絶し、ソフィアの示す恩恵にも預からない生活が始める所から始まります。徐々に疎遠になっていくクラスメート。これまでの関係が確実に変わっていき、親しくしてくれる裏に見える思惑。だがそれは、閉鎖された状況の中での浮き彫りに去れる様々な人間関係に触れることになるその始まりに過ぎなかった―――。と
この作品は、全部で4章仕立てといったところですかね。
第1章では4組の生徒たちとの関係。第2章では幼馴染との関係。第3章では昔のクラスメートとの関係。第4章ではそれらを踏まえた上で紀之が感じたことを最後に締めくくるように書かれる、といった感じで、紀之の立場が転々としていきその中での人間関係の変化が見事に書かれています。
次第に疎遠になり、最後には悪意を向けてくる4組。互いに頼り、頼られるも周りがそれを許さない幼馴染。理想論を語り、自分の庇護によって調和と平和を求める昔のクラスメート。そんな激動とも言える人間観関係の変化に、紀之は最後には悟るように自分を再確認する…となっていきます。
ある種社会風刺的な、閉鎖状況における人間関係の移り変わり。それらは読んでいる間に「考える」ということを再認識させてくれます。自分がこの中の者と同じになっていないか…自分の考えは………?
とてもよく出来た、人と人との関わり、人同士の対話の重要性に重点を置いた作品でした。
明確な謎に明確な答えが用意してあるわけではなく、ラストもただのハッピーエンドで終了というわけではないので、受賞作がそのまま続刊として続きが出されたりするということが成り得なさそうなのが少々残念ですが、一つの纏まった作品として十分金賞に値する作品だったのではないでしょうか。