声で魅せてよベイビー

声で魅せてよベイビー (ファミ通文庫)

声で魅せてよベイビー (ファミ通文庫)

声で魅せてよベイビー

えんため大賞の『佳作』受賞作品。
登場人物は主人公としてハッカーの高校3年生「広野」、声優志望の専門学校生で腐女子「佐奈歌」、その同期生「大関」と「椎名」、そして広野のハッカー技術の先輩である"おっちゃん"こと「熊原」。これに、アイドル声優事務所の社長やらのモブキャラを交えながらストーリーが展開していきます。
物語は、某同人誌即売会の会場で、同人誌としてとあるOSの解説書を熊原が売り出し、それを求めて広野がその同人誌即売会会場へと来るところから始まります。そこで出会う広野と佐奈歌。熊原のスペースで互いに顔を見知ったと言うただそれだけの2人でしたが、時間つぶしに広野が向かった佐奈歌のバイト先のスペースで、アイドル声優事務所「イーグレス」の社長に会った佐奈歌が売り言葉に買い言葉で広野の事を自分の"彼氏"として紹介したところから、2人の関係は普通とちょっと違った感じになります。
声優の演技指導で「恋を知らない」などを理由に手痛い指導を受けていた佐奈歌は、広野を呼び出して彼氏彼女の真似事をし始めます。そんな佐奈歌に付き合ううちに、佐奈歌を通じ、大関、椎名とも出会う広野。
劇団に所属していると言う行動派の大関、自分と何処か似た雰囲気を感じさせる椎名や、放っておけない佐奈歌。そんな3人と関係を続けていた広野は、やがて広野は受験、佐奈歌は劇団に打ち込むことになりますが、佐奈歌の劇団は椎名が欲しいイーグレス社長によって、公演失敗を狙われていて…と、まぁこんな感じですかね。
佐奈歌の体からにじみ出るように広野には見えた"黒玉"。その黒玉を相手にしているうちに佐奈歌の内面に深く触れていく広野。そしてそれが、ハッカーとして自分なりの生き様を確立しようとしている広野にも強い影響を与える事になるのは、抽象的というかファンタジックな表現で佐奈歌の内面と向き合う広野として書かれていると思えましたね。
総評して、文体が広野の一人称で書かれていますがただの一人称ではなく、「広野」という個人をよく表現している考えられた文章だと思えました。「広野」の思考の癖、表現の癖、間の取り方、そういったものを書き、「広野」という個人を通じて周囲を追いかけ続ける作品と言えば良いのでしょうか。そういった意味で、親近感の強くなる、気合の入った作品でしたね。

さてこれで、えんため大賞関連で出版された分は最後ですね。優秀賞の「108年目の初恋」、佳作のこの「声で魅せてよベイビー」、編集部特別賞の「バカとテストと召還獣」、東方学園特別賞の「ほおむステイ☆でい〜もン!」で。
この4作の中では、私的には先が読みたいのが「バカとテストと召還獣」。全体的に良く纏まっていて読了感が清々しかったのが「108年目の初恋」。といった所ですねー。