108年目の初恋

108年目の初恋。 (ファミ通文庫)

108年目の初恋。 (ファミ通文庫)

108年目の初恋

第8回えんため大賞、『優秀賞』受賞作品。それだけあって、かなり読ませてくれる作品でした。
登場人物は付喪神ツクモガミ>として変化した旧校舎である『コウ』と、新入生として入ったばかりの中学1年生、『三宅 新』。この2人がメインで、サブキャラクターとして生徒会副会長で金髪さんの『リアン・キャンベル・狭山』、新の友人の2人で男友達の『坂柳 友久』、女友達の『山下 夕子』、コウの大先輩である『千生 コモン』、新の兄である『三宅 琢磨』が登場します。
ストーリーは、建築されてからおよそ百年間、倉手南中学校の校舎として使われていたコウが、春から旧校舎としてその役割を完全に新校舎に譲った所から始まります。少しづつ移転していた勉強の場所が完全に新校舎に移ったことで、まったく生徒たちが来なくなって退屈していたコウは『旧校舎』を探検に来た者を観察する事を一時の娯楽として楽しんでいました。だが、そんな『探検』に来た新が危険な場所に立ち入ってしまい、彼を助けようと声をかけ付喪神の力で物理的にも助けてしまったことで、新が『旧校舎に棲む何者か』に魅せられてしまいます。
何度となく旧校舎に忍び込もうとする新。生徒会副会長で霊的存在に深い理解を持つリアンとも互いの目的のために協力関係を取り付けながら、新はコウ―――『旧校舎に棲む何者か』を探し続けます。過去に起きたとある事件で人間との関わりを怖がっていたコウだが、諦めない新の姿に徐々に心を開いていく。だが、旧校舎であるコウには『取り壊し』という不確定未来が待っていて…と、なります。
この作品は、文体が一人称でコウの視点で綴られています。これがコウというキャラクターを掘り下げる事になっていて、『旧校舎の付喪神』というイメージし難いキャラクターを「ちょっと臆病な人見知りをする女の子」として表していて、コウに対するイメージの湧き易さに繋がり、さらに愛着の様なものを感じさせてくれていましたね。
当初はカラっとしているけどただの子供みたいだった新や、ただ過去の過ちを繰り返したくないと何かにつけて消極的であったコウ、厳格で霊と言う存在などにも厳罰的強圧的でさえあると感じられていたリアンなどが、作品が進むに連れて新は1つの事に邁進する子供の様な一面を持ちつつも、誰かの為を想って行動できるようになったり、コウは過去の事に縛られすぎず、でも忘れないと精神的に成長したり、リアンは事情を考えて臨機応変に対処するようになったりと、キャラクターにも精神面での成長が見える話でした。
総評して、この話は恋を知らない少年と傷を持った少女との、ボーイ・ミーツ・ガール的なストーリーだと感じました。
自分の感情に戸惑い、あるいは気付かないで相手に会いたいという気持ちだけで走る新。
人ではない『付喪神』という存在ゆえに起こした過ちの為、新を拒絶しなければと考えながらも惹かれていくコウ。
そんな2人が駆け抜けた、擦れ違いと和解と、互いのことを考えて行動しつづけた1年間。それらはきっと、読者に『コウ』という存在を忘れられない「者」としてくれることと想います…。