太陽戦士サンササン

太陽戦士サンササン (富士見ファンタジア文庫)

太陽戦士サンササン (富士見ファンタジア文庫)

太陽戦士サンササン

第18回ファンタジア文庫長編小説大賞にて『準入選』となった、同時デビューの4人の作家の1人坂照鉄平先生の作品です。
世界観としてまず、この作品世界の日本には犯罪者の人権その他を剥奪して『咎人』という拘束状態にし、それを労働力として使役する警官がいる。というものがあります。『咎人<クライム>』は、自分を監督、使役する『咎回し<クライムハンドラー>』と呼ばれる警官によって制御、管理され、犯罪者の視点で警官を支援することを命じられる…と、そういう役目を担うわけです。
登場人物はそんな『咎回し』の来間鉄斎こと通称テツと、その義理の姉だが『咎人』である八桐詩菜、そして『異世界からやってきた勇者』で黒地に燃える炎の意匠が書かれ、前頭部にドクロのマークが入ったフルフェイスメットという族メットに憑依した精神生命体のジャストルッバート・ホーイッツ(通称ジャバ)。この3人を主軸に、ジャバの敵である魔王ニカ・カジと戦う。というのがメインになります。
ストーリーは、テツが咎回しとして詩菜と犯罪者取り締まりの仕事をしていると、たまたま世界を移動してこの世界に出現したばかりの魔王ニカ・カジと出くわしてしまい、大ピンチに。だがそこにさらに現れたジャバの力を借り、テツが太陽戦士サンササンとなって戦い九死に一生を得て生還。その関係で、それ以後もジャバの手助けをして魔王を捜していると、その内にテツたちは街全体を巻き込んで始まろうとしている陰謀に気がつく。そしてそれは、7年前に詩菜が犯罪者として拘束されることになった事件が関わっていて…と、こんなところですかね。
全体的にはかなり馬鹿っぽいノリというか。超熱血系ですね。
必殺魔術を使う時に叫んで使わせようとするジャバと、それに文句をいいながら無言で術を繰り出す鉄斎の温度差の激しさが最初は目が行きますね。だが最後には、ジャバの言うのもあながち間違いじゃないと認めながら、叫びと共にサンササンに変身したり、素で言うには恥ずかしすぎる超熱血なセリフを言いながら魔王にトドメを刺しに行ったりと、だんだん温度差がなくなっていくくだりは読者が同調できればかなり熱い作風として読めるのではないでしょうか。
咎人として鉄斎と共に在る詩菜も、義弟を守る義姉という立場と咎人という立場の違いへの苦悩。義弟を守りたいと言う思いと亡き養父への恩義。どちらも本物だけに、二律背反する状況に、心に揺れる姿が一途に書かれていて魅力的でした。もっと素直に鉄斎に頼れよ、と思うくらいに。
総評して、見た目や設定は某社から出ている漫画の「破壊魔定光」に似ているところが多いですが、内容は科学ではなく魔術と言ったファンタジーで、そこに現代の陰謀劇が混じり、さらに<咎人>と<咎回し>という設定が鉄斎と詩菜の関係を深めたりしていて、かなり洗練されたイメージがあります。ですが作風は熱血系。この2つの温度差が、読んでいる時にも起伏として飽き難い感じを作っていると思えました。
街を守る仮面のヒーロー、その誕生までの葛藤と苦悩。そして不思議なトリオが正義の戦士として立脚するまでの道のりを楽しんでください。