文学少女と繋がれた愚者

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

文学少女と繋がれた愚者

文学少女シリーズの第3巻。毎回何かしらの文学作品をモチーフにして話が進んでいくこの作品。今巻では武者小路実篤の、『友情』がモチーフとして扱われていました。
ストーリーは、文化祭を間近に控え、文芸部でも劇をするという話をしながら本を読んでいた遠子先輩は、その手の中の本が1ページ、カッターのような物で切り取られている事に気がつく。犯人はすぐに見つかり、遠子先輩はその相手に黙っている代わりに人手の足りない文化祭での自分たちの劇へ出演するように持ち掛ける。それ承諾する犯人こと心葉の級友、芥川一詩。遠子先輩の交友関係を中心にして数人が集まる。だがそれが、過ちと擦れ違いから起こった悲しい過去を起点にした、苦悩と懺悔の物語の始まりだった…。と。
男2人と女1人の、いわゆる三角関係を描く武者小路実篤の『友情』。同様に、この『繋がれた愚者』でも、三角関係の男女が起こす事件がキーとなって話が進むという形でした。
この巻では、また少し心葉の過去が明かされます。幾度となく心葉の葛藤と苦悩に出てきた『美羽』。そんな彼女と心葉の間にあった出来事が、少しだけ見えてきます。琴吹ななせとの関係も少し変わり、文化祭という舞台のためか今までよりも心葉に対して軟化した態度を見せてくれたりしています。「全員に〜」と言いつつクッキーを焼いて持ってきたりと。
また、ななせに関しては以前の感想で心葉の過去を知っているのでは?と書きましたが、そうではなく、どうやら心葉の過去を推測できる何かしらの要素を持っているみたいですね。中学生時代に心葉と会ったことがあるそうですので、作品を書かない事に憤慨しているのではなく、中学時代と変わり過ぎた心葉に疑問を持っている、という感情のようで。
遠子先輩に関しても、また少し掘り下げられたキャラクターを垣間見る事が出来ますね。
食べ物の味がわからず、本を食べる事で始めて味わうと言う行為ができる遠子先輩。前述のななせが焼いてきたクッキーを食べ、味を『想像』して感想を言うなど、その不遇を悟られないように配慮している様は、普段の元気一杯な印象と逆でしんみりとしてしまいます。
総評して、今巻も良い出来でした。『友情』と重なるように対人関係で苦しんでいた芥川、そしてそんな芥川に自分を重ねてしまった心葉。劇中劇である文化祭でのステージで、ようやく芥川が出す結論は、それまでの積み重ねと結論までに重ねた苦悩の分、単純ながらひときわ心に残る決断だったと思えます。