DX3・リプレイ・ジェネシス1

ダブルクロス・3rd リプレイ ジェネシス 放課後のアルテミス

著者・伊藤和幸先生&F.E.A.R.。挿絵・亜沙美先生。
・シナリオ
綾間市を襲う謎の連続爆殺事件。その被害者となった女子高生・あやめは、それをきっかけに超人(オーヴァード)として覚醒する。戸惑うあやめに同じく力を持つ同級生の少年・コウは、世界がすでに変貌していること、事件の真相もまた日常の裏側に隠されていることを告げた。友を、日常を守るため、今、あやめの力が目覚めていく…!プレイヤーにゲームデザイナー・矢野俊策、人気作家・師走トオルら豪華メンバーを起用、『ダブルクロスThe 3rd Edition』初のリプレイに気鋭・伊藤和幸が挑む。絆と裏切りの現代アクションRPGリプレイ第1弾。(7&YHP商品紹介ページより抜粋。)
・登場人物
PCは4名。
まずはPC1こと陸原コウ。彼を演ずるはDXシリーズの生みの親で、「王子」「クレバー矢野」の愛称で親しまれTRPG『ナイトウィザード』では名物キャラ「柊蓮司」などを生み出した矢野俊策先生。コウは良く言えば寡黙で悪く言えばぶっきらぼうな一般的なコミュニケーションが苦手で、たまに口を開いてみればトボケタ発言だったりするというキャラ。シンドロームは「サラマンダー/キュマイラ/ブラムストーカー」という3つのシンドロームを取得している『トライブリード』で、前線で戦闘しつつ与えたダメージで自分を回復などもできるというオールラウンダーな能力を持つ。早速DX3の新システムを活用しているキャラクターですね。
PC2こと敷島あやめを演ずるは、アリアンロッド・リプレイ・レジェンドでヒロインの1人「セレネ・コロローナ」などをされている藤井忍先生。シンドロームは「モルフェウスノイマン」で物質変化の能力で銃を生み出し、冷静な判断力で射撃攻撃をする、という戦闘スタイル。接近戦のコウと対になる感じですね。また、あやめは慌てた時の発言がダイナマイトで自分の発言で自爆するタイプです。
PC3こと神月正義は富士見ファンタジア文庫で絶賛発売中の王道ファンタジー小説火の国、風の国物語」の作者で、他にも裁判を扱った小説「タクティカル・ジャッジメント」などを書かれている師走トオル先生。シンドロームは「ソラリスソラリス」のピュアブリード。化学物質や幻覚物質の生成能力を持ちます。神月正義は自分の信念『正義』に拘りがあり、その幻覚作用を起こす物質で戦場を裁判所のように見せ、その隙に敵にエフェクトのコンボ(自称「裁判所コンボ」)を打ち込んで『正義執行』をしたりする人です。多少行き過ぎることもありますが…。
PC4こと陸原瞳は小学生少女のオーヴァード。扮するはF.E.A.R.社代表取締役にして根っからのゲーマー、鈴吹太郎社長。シンドロームは「ハヌマーン/オルクス」で、猫を操って色々なシーンにも登場して小学生少女という行動範囲の狭さをカバーします。戦闘スタイルは自分での攻撃を捨てて支援に特化した存在。キャラクターとしての陸原瞳は、自分の好きなように生きるマイペースなお気楽キャラだが実は一番気がつく人、といったところでしょうか。
他のサブキャラクターとして、UGNの霧谷雄吾などのDX2から引き続き登場の名物サブキャラクターが登場したり、背景が不透明な謎の転校生カイン・マイルズなどが登場します。
・感想
3rdとなり新バージョンとなったTRPGシステム『ダブルクロス』。その新バージョン版でのリプレイ作品ですね。
内容はPC4名による地方都市のUGN活動、という形がメイン。とはいえPC4名の内、UGNなのはUGNチルドレンである陸原コウと陸原瞳の義兄妹だけ。他の2人は片方はオーヴァー度覚醒直後というスタンスで、もう片方はイリーガル―――現地協力者、というスタンス。こんなバラバラの彼らが出会い、パーティを組み、協力して連続爆殺魔やレネゲイド暴走効果入りのドラッグから舞台となる綾間市を守るために活動をするようになる、というのがこの巻での大まかな展開ですね。
収録されているのは2話。物語の始まり、PCたちが始めて出会う第1話「Episode1 炎の出会い〜Blaze Encount〜」と、ひと時の共闘でしかないつもりだったパーティが再び結成され市を襲う陰謀に立ち向かうことになる第2話「Episode2 悪魔の霧〜Devil’sMist〜」。
第1話「炎の出会い」では前述したPCたちの出会いとパーティが結成されるまで、という基本スタンスが描かれます。ただPCそれぞれの立場がみんなバラバラなので、そんな彼らが彼女らが知り合い、共闘するようになるまでがTRPGっぽくてよかったですね。UGNチルドレンで非日常が普通なコウと瞳、その協力者―――日常と非日常のボーダーライン上にあるグレーゾーンにいる正義、まったく非日常とは関係なかったあやめ、そんな4者があやめがオーヴァードに目覚めたことで日常が変化し、関係が絡まりあっていくのが面白かったです。敵役の連続爆殺魔も、第1話の敵としては高過ぎず、低過ぎないという絶妙な感じの強さで物語の盛り上げに一役買っていましたし。とてもバランスの取れたシナリオだったなぁ、と思います。
第2話「悪魔の霧」は、あやめとは前回限りの共闘のつもりだったコウが危険に首を突っ込んでくるあやめに根負けする形でふたたび協力し合い、綾間市に住む一般人をジャーム化する驚異的なドラッグの拡散を食い止めようと活動する話。それぞれが持つキャラクターとしての設定や所持するエフェクトなどをうまく使ってシナリオを進めていたのが印象的でした。神月正義の弁護士としての振る舞いは中の人(師走トオル先生)がそういった題材の小説を扱っていただけに堂に入ったものでしたし、あやめの『インスピレーション』の使用タイミングなども思考能力に特化している、というシンドロームの特性とシナリオ展開がマッチしていて見事なものでした。
総じてこの新シリーズ作品。新設定などもありますが旧版のDXを知っていればなんら問題なく楽しめ、知っていなくてもPC同士の掛け合いやダイス目に一喜一憂するさまが楽しめるなど、どちらであっても楽しめる作品だったと思います。