ご主人様は山猫姫3

ご主人様は山猫姫3 辺境新米英雄編

著者・鷹見一幸先生。挿絵・春日歩先生。著者の鷹見先生は電撃レーベルでは「時空のクロス・ロード」「ガンズ・ハート」「小さな国の救世主」「リセット・ワールド」などのシリーズ、角川スニーカー文庫レーベルで「でたまか」「銀星みつあみ航海記」「会長の切り札」シリーズ、などなど多数の著作を持ち『物語製造業者』と呼ばれることを希望されるラノベ界の実力派小説家ですね。挿絵の春日先生は電撃大賞イラスト部門で選考員奨励賞を受賞された、未来を期待されているイラストレーター先生とのことです。
・シナリオ
晴凛を巡り、ミーネとシャールが激突! 今度の戦は女のバトルか!?
 どういう訳か侘瑠徒の王ということになってしまった晴凛。晴凛を婿にするというミーネの策略(?)もあり、シャン族の族長イシルに挨拶に行くことに。折しも、シムールは全ての部族の長が集まる大族長会議の真っ最中。そこで、ミーネは晴凛を婿にすると宣言する。それに反応したのはタッケイ族の族長スンタタだった。スンタタは娶るならシャールにしろと言う。かくして晴凛を巡り女の戦いが勃発。ミーネとシャールはどちらが嫁にふさわしいか料理勝負をすることに。「晴凛はわしのもの」「晴凛様はわたしのもの」と火花を散らす二人の戦いの行方は!?(電撃文庫HP商品紹介ページより抜粋。)
・感想
今回の巻は、帝国とシムールとの間で戦端が開かれた直後のまだ大きな戦ともなっていないような状況で、両陣営のキャラクターたちがそれぞれに日常的なことや軍関係の任務などをしている様子を描いた話になっていました。つまるところ国と国との諍いを書いたシリーズものですが、今巻の内容はそういった戦争的なものではなく、それぞれの国の内部事情なんかの話が書かれる、という感じです。
大きく分けて内容的には2つ。シムール側の話と帝国側の話ですね。
シムール側では晴凛がシムールの部族に認められるために、シムールに属する部族から妻を娶るという話になる。その相手としてシャン族のミーネ姫とタッケイ族のシャールが立候補し、かくて始まる嫁の座争奪戦。晴凛の妻の座を勝ち取るのはどちらか、という感じなもの。ラブコメチックな展開が多い、気楽に読める内容です。晴凛が主人公らしく2人のヒロインに迫られて色々と苦労する話が見られます。それと同時にそれぞれ知恵を絞り、晴凛の妻たらんとするミーネ姫とシャールの健気な姿も見ものでした。ミーネ姫の作った肉料理は怖いもの見たさもあってソースまで含めて食べてみたくなりましたし、シャールの作った麺料理の表現はどうにも「シュールストレミング」が頭をよぎって離れませんでした。
帝国側では晴凛の兄である光凛の話となります。部隊を率いて対シムールの為に用意された大量の軍資金を積んだ馬車を護衛しながら延声を目指し、その道々で武具防具を調達せよと命令を受けた光凛。光凛は忠実に任務を実行するも、その道中は軍資金を狙って襲い来る山賊たちにより大変な苦労をすることになる。さらに無事、延声に到着するもその地の県令はある企みをしていて…と、晴凛の兄、光凛が多大な苦労を重ねその果てにある結末を迎える…という内容。腐っている帝国上層部により、光凛が危地に晒される、という何とも重い話です。帝国の上層部がいかに腐っているか、腐敗した官僚というものがどれだけやっかいかということが、如実に見られます。犠牲を出した任務の行き着く果てがあれでは、光凛以外が主役で晴凛と繋がりが無くても、帝国を見限って晴凛たちに味方したくなるだろうなぁ、というものです。
総じて今回はシムールと帝国との戦争という意味での話の進展はありませんでした。それぞれの内部で何かしら先につながりそうな動きがあり、晴凛に味方が増えたり帝国側から有能そうな人材が抜けたりと、人事に関して多く動きがあった巻。それがこの巻の印象でした。