文芸部発マイソロジー

文芸部発マイソロジー (一迅社文庫)

文芸部発マイソロジー (一迅社文庫)

文芸部発マイソロジー

著者・早矢塚かつや先生。挿絵・きくらげ先生。早矢塚先生はMF文庫Jで「悠久展望台のカイ」「死神ナッツと絶交デイズ」などを出されています。
・登場人物
主人公は異世界クラフティアでは光と火の神・ヴィガシュダルヌとなる、文芸部所属の普通の高校2年生だった近藤寛二。異世界クラフティアでは大地と闇の女神・ギアとなる寛二の後輩で、クラフティアのことに他の面々を巻き込んだ高校1年生の須弥伊緒。異世界クラフティアでは空と風の女神・ハストゥ=ルルとなる高校3年生でクトゥルフ神話マニアの愛倉葉月。異世界クラフティアでは海と水の女神・水那乙姫命となる、高校1年生でボクっ娘の諏訪命。異世界クラフティアにあるゴシの村に住み、ヴィガシュダルヌを信奉する巫女として暮らしていたアマヨリ。
敵役は北欧神話において冥府の女神とされるヘルやガルム。他、北欧神話から多く出ている感じですが日本神話も一部、というところですか。
・シナリオ
黙っていれば美少女なのに、口を開けばクトゥルー神話だの何だのクセのありすぎる話しかしないという、須弥伊緒たち中上高校第二文芸部員。彼女たちと日々を過ごす近藤寛二は、自分たちが部活動の一環で創作した神話世界が本当に生まれてしまったことを知ってしまう。しかも、面白くするためにいろんな世界の神様を連れて来られるという設定にしたばかりに、その世界が大変なことに…。
・感想
この作品は、主人公である寛二や伊緒、葉月や命たちが文芸部の活動として書いた「私の考えた神話」的なリレー小説という創作世界が実際に異世界にとはいえ誕生し、その誕生に関わった者たち―――寛二や伊緒たちがその異世界で『神』として存在することになる。が、世界を定義したその設定の抜けや未熟を別の異世界の住人たちに狙われ干渉されて、世界を作りかえられようとされてしまうことに。寛二たちは自分たちが生み出した世界を、そこに住む存在―――人々を、世界の改変から守ることができるのか、という内容ですね。ある意味で異世界転移型のファンタジーともいえます。
内容的には上記の理由で、異世界からの侵略や侵食と寛二たちが、神話として設定した自分たちのアバターとなる『神』に実際になって戦う、というバトル色の強いものになりますね。個々人の特性を如実に出した神はそれぞれのバトルスタイルが違っていて役割分けされていて、パーティ的な意味ではバランスがよいですが、微妙に実際の性格―――異世界クラフティアの神ではなく現実世界でのただの人間としての性格―――と違う権能を持っていたり、逆に性格通りの権能を持っていたりなどしていて、そういった性格と違うギャップや性格通りにマッチした権能を使っている様子が面白いです。
かと思えば『神』として異世界クラフティアに存在しながらも、元はただの学生ということで人間味溢れる接し方でクラフティアの原住民と交流して相手を驚かせたり、自分に興味のあることに猛烈な食いつきを見せたりしていて、神話を扱っているということで仰々しくなりがちな物語の雰囲気をコミカルな一面を多々と見せて色々な楽しみ方ができるようにしていました。
そんな『神』として異世界では侵略と戦う様相とは一変して、現実世界では普通の学生をしていてこちらも興味深いです。
創作神話を作る―――それはつまり、自分の内面をさらけ出すということ。
ともすれば厨設定・トンデモ理論が出てしまい他人に笑われることもあるでしょう。この作品はそこをしっかり書いていて、その上での学生らしい理解や共感を経て寛二たちが仲間となる様子を描写していて、青春ストーリーとしても相応のものを書いています。