SW2.0 剣をつぐもの1

ソード・ワールド2.0  剣をつぐもの1 (富士見ファンタジア文庫)

ソード・ワールド2.0 剣をつぐもの1 (富士見ファンタジア文庫)

ソード・ワールド2.0 剣をつぐもの1

著者・北沢慶先生。挿絵・bob先生。北沢先生は同レーベルで「デモン・パラサイト」シリーズや「召喚師マリア」シリーズなどを書かれています。
・登場人物
冒険者レベルは2で、我流で魔導機術を扱うマギテックで銃を使うシューターでスカウト、かつて蛮族の襲撃で住んでいた町を失い自身も死に掛けたところを冒険者に助けられ、一時は冒険者に夢を見ていたが現在は現実的に地道に稼ぐ堅実な人生を歩もうとしているアレク・ダーニカ。冒険者レベル3で、騎士神ザイアの神官戦士でプリーストでファイター、レンジャー技能も有する前衛、子爵位を持つ貴族の出身で婚約者がいる身であり、それ故にひと時の自由を求めて遠征武官という各地を巡る役職になろうとしているリリアンナ・オレスティ。冒険者レベルは2で、コンジャラー・セージの後衛型魔術師、アレクの母のサーシャに行き倒れているところを拾われ、数年間をアレクと兄弟同然に育ったタビット族のウラド・ディス・ディアーノ。前衛としても後衛としても活躍できるファイター、ソーサラー、ライダー、エンハンサー、スカウトという多芸な技能を持つ冒険者レベル9というベテラン冒険者だが、物語冒頭では酒場の隅で飲んだくれているだけのナイトメア、ダリウス・ガノッサ。
他、サブキャラクターは姫将軍の愛称で呼ばれるダーレスブルグの守りの要、第四軍団を指揮するマグダレーナ・イエイツ将軍。冒険者の店の主人でリルドラケンのシューリガン。アレクの母で魔導機術の店の女将をしているサーシャ。冒険者ゼッツ。貴族のロスハイム伯爵。ダーレスブルグより北の街、カシュカーンの守備隊長のハウル・バルクマン。
・シナリオ
「—あなたはクビです」足下に叩きのめした男を見下ろすと、少女は冷たい声で告げる。(すげぇ女…)それを見ていた少年アレクは唖然としていた。しかもこの少女・リリアンナと仕事をする羽目になろうとは…。人族の宿敵“蛮族”の侵入を防ぐ“守りの剣”の儀式を手伝うため、リリアンナに付き合うことになったアレクは、偶然にも蛮族たちの恐るべき陰謀を知る。必死の忠告にも耳を貸さない大人に怒りを覚えたアレクは、自分たちの力だけで蛮族と戦うことを決心するが—。“剣の創りし世界ラクシア”を舞台に、アレクとリリアンナの魔剣を巡る冒険が、ここに始まる。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品はボーイ・ミーツ・ガール的に主人公とヒロインが出会いながらも、話の大筋では主人公が運命の子としてある大きな展開に巻き込まれることで始まる物語、という所でしょうか。
家の手伝いで単なる届け物をするために冒険者の店を訪れた主人公アレクが、ヒロインであるリリアンナが冒険者との間に起こしたいざこざにたまたまそこに居合わせたことで巻き込まれ、マギテックとしてちょっと協力する、ということで軽いクエストに挑むも、そこから町の衛兵が蛮族に成り変られていることを知ったり町を守る将軍の暗殺計画を知ってしまったりして、仕舞いには街全体を襲う危機に関わっていく、というものです。
下地としてソード・ワールド2.0が使われていて、この作品自体を本当に楽しもうと思うならまず基礎知識的なものとして「TRPGソード・ワールド2.0」を知っている、ということが前提になるかと思います。勿論知らなくても随所で説明的な地の文があったりセリフが説明的だったりしますが、やはり知っている人が一番楽しめる作りかな、と。
物語は序盤から中盤は小競り合い的に、町の中で正体を隠した蛮族とその正体を知ってしまったアレクやリリアンナ、ウラドたちが蛮族に追われつつ身を隠しながら進み、終盤には大攻勢に出た蛮族が街攻めをし、それに対して軍や冒険者たち(アレクたち含む)が対抗するなどして、大きく動きます。
知ってしまった陰謀。信じてくれない周囲。そんな中、わずかな信頼を得てそこからなんとか蛮族の企みを阻止しようと、ただの町人であるアレクはその交友関係を頼りにしながら外で奔走し、リリアンナは下級貴族であるが故の立場と機会を使って狙われている姫将軍に直訴しようとする。果たして蛮族の陰謀は成るのか、その行方は―――?という感じですね。
新しくなった剣と魔法の世界、ソードワールド2.0。その世界観の説明や人間と亜人種、蛮族との対立とその最中にあって立場がどちらにも転ぶルーンフォークなどの多様な人種の見せ方、『穢れ』の設定、剣と魔法だけではなく、マギテックたちが使う過去の文明の遺物―――銃やマギスフィア、魔導バイクなど、ファンタジーの中に埋もれたSFが見られるなど、旧版から変わったところが眼を引きました。
主人公とヒロインについては、主人公のアレクは元々は冒険者に憧れながらも現実的な辛さなどを知っていて、今では夢を諦め堅実な人生設計を考える「夢を忘れようとしている少年」というところ。ヒロインのリリアンナに関しては、家のために婚約者も決まっていて、下級貴族として政略結婚などにも納得しているがその前に少し自分の時間が欲しい、と願い行動もしているという「誰かが決めた未来に対して不満は無いが、自分の未来を自分で描きたいという想いも残っている少女」というところ。どちらも共通しているのは未来に対して達観した一面がありながらも、自分の可能性にも希望を見ている存在、というところでしょうか。ただアレクは未来に達観しながら自分にも希望を一瞬見たりしますが、積極的に自分では動きません。が、リリアンナは自分の未来が決まっているからこそ自分で出来る範囲で自分の未来を変えようとしている、という積極的に自分に出来ることをして未来に変化をもたらそうとしている存在、としてアレクとは対極的なスタンスですね。消極的なアレク、積極的なリリアンナ、という感じで。その対比が、互いに影響を与え合っているのが面白いです。