本日の騎士ミロク1

本日の騎士ミロク1 (富士見ファンタジア文庫)

本日の騎士ミロク1 (富士見ファンタジア文庫)

本日の騎士ミロク1

著者・田口仙年堂先生。挿絵・高階聖人先生。著者の田口先生はファミ通文庫レーベル「吉永さん家のガーゴイル」シリーズで有名で、最近では別シリーズとして「魔王城」シリーズなども書き始められていますね。挿絵の高階先生は電撃文庫レーベル「二四〇九階の彼女」シリーズの挿絵などを描かれています。
・登場人物
主人公は剣術バカだが相応以上に見合った実力も持つ、移民としてジルサニア王国にやってきて数ヶ月間仕事を転々としながら妹のコニーと使用人のササヤの面倒を見てきていて、物語冒頭でジルサニア騎士団に入ることで新しい職を得ようとするミロク。ジルサニア騎士団に存在する『赤目隊』という通称の部隊に出入りするがさつな態度で乱雑な言葉遣いをするジュジュこと正体はジルサニア王国の王女であるジェルメール・ジルサニア。『赤目隊』所属の女騎士だが剣を使わず拳をもって戦うアーニィ。『赤目隊』隊長でウサギの姿をしている霍乱戦術を得意とするビスマルク武装ゴーレム『クロトポリカ』を扱う凄腕のゴーレム技師、その口煩さから赤目隊のお母さん、とミロクに評されるトーラット。様々な人種が入り乱れる国、藍山同盟出身の弓の名手で化粧も得意な、訛りの強い言葉で話すフェリサ。メインはこれら『赤目隊』に所属する人々、という感じで。
他のキャラクターはジュジュの兄で第一王子、自ら騎馬隊を率いて敵国との戦にも赴くアーセージ殿下。ミロクの妹でジュジュとは学校で同級生の友人、コニー。ミロク、コニーの面倒を見る使用人のササヤ。
・シナリオ
「あのー、ビスマルク隊長」「なんだ」「…本当にここ、騎士団なんですか?どうして俺には、いや、この隊のみんなには剣が支給されてないんですか!?」俺、剣バカのミロクはバイトをクビになって困ってたところ、ジルサニア王国騎士団にもぐりこむことに成功!式典で見かけたジェルメーヌ姫の美しさに衝撃を受けたまま、「赤目隊」に入ることに。ウサギの隊長ビスマルクや同僚の豪快アーニィ、不思議ちゃんフェリサといった変なヤツラにしごかれるうち、ジェルメーヌは超ガサツな少女ジュジュと知ってガックリ、帯剣はダメと言われ大憤慨。さらに国外へパシリを命じられた俺はブチ切れて—。(7&YHPより抜粋。)
・感想
「ちょっと異色ですが正統派ファンタジー!」という評価が似合うのではないでしょうか。戦の主役が剣や槍で、竜がいたり、生活に魔法が密着していたりする科学技術より便利に使われる魔法技術全盛の世界で、一人の少年が新しく得た場所での生き方を探す、そんな物語でした。
話の流れは主人公であるミロクがジルサニア騎士団に入団し、配属先が決まったところから始まります。配属先は『赤目隊』。剣術バカなミロクがお姫様を守り、その剣の腕を活かすつもりで選んだ就職先は剣を持たない騎士団だった―――というもの。そんな場所に配属されたミロクが、それでもその場所で自分のあり方を探そうとします。
物語前半では、配属された先でジュジュという口も悪い態度も悪いが実は国民の人気を集めるお姫様、という彼女の無茶な命令に振り回されミロクがフラストレーションを溜めていく様子が描かれていました。剣を使う為に選んだ仕事先で剣を与えられず、使い走りばかりされるミロク。その内面での葛藤―――今の仕事を大事で必要な仕事、と思いながらも自分の望む形で自分を使えていないという二律背反するミロクの煩悶が書かれていました。しかし中盤でそのフラストレーションが爆発し、ジュジュに爆発する感情をぶつけてからは生活に密着したシーンなどが多かった前半とは変わり、一気に血生臭くなります。そして後半は戦場に立つミロクの活躍と、ジュジュが二つの顔―――ジュジュとしてのあり方とジェルメールとしてのあり方を使い分けている訳、ジュジュに隠された国家の秘密、退くジルサニア国軍を援護するために殿を勤める赤目隊の活躍、その中でミロクはジュジュからの信頼を受けて国家の秘密の一端を知らせてもらったりとするなど、そういった怒涛の展開が一気に描かれていきます。
前半と後半のギャップが激しいですが、その契機となる出来事としてミロクが不満を爆発させる、というクッションが挟まれていますのでそこが転換期としてわかりやすいですね。日常を描く前半部分と、ミロクがジュジュと喧嘩してからが戦のシーンがメインとなる後半、ということで。
総じるとこの作品は、主人公には秘密があり、ヒロインには強気に振舞うもその裏では弱い部分がある、という正統派な主人公とヒロインがメインに活躍する王道的な物語だったと思います。