火の国、風の国物語6

火の国、風の国物語6 哀鴻遍野

著者・師走トオル先生。挿絵・光崎瑠衣先生。師走トオル先生は富士見ミステリー文庫で口先弁護士による痛快裁判小説「タクティカル・ジャッジメント」シリーズを書かれています。
・登場人物
主人公は両手に騎士剣を持って戦う豪腕の双剣騎士、近衛騎士であることを示す赤い鎧と貴族である事を示す赤いマントを同時に身につける建国の英雄初代ファノヴァールから数えて4代目のファノヴァール家当主、アレス・ファノヴァール。何者かに仕える使い魔の如き謎の存在で、アレスに取り憑いて事有るごとに怪しげだが的確な助言を与える、アレス以外にはその目に映らない少女の姿をした魔性、パンドラ。
サブキャラクターは、過去にアレスにより暗殺されるところを救われ以後はアレスの主君として存在している、物語の舞台となるベールセール王国の13歳の王女クラウディア。クラウディアの侍従シオーネ。アレスの義妹で従軍神官としてアレスと行動を共にしているエレナ。アレスの愛馬オルトス。アレスの従者となった騎士レオン。アレスの存在が国のためには良くないのではと考える内務卿のカルレーン侯。アレスとの間に過去にちょっとした軋轢を抱えるベールセール王国軍の現司令官、フィリップ。そのお目付け役のキルマード。
風の国」側の面々はベールセール解放軍を名乗る一団の指導者で<オーセルの賢者>と呼ばれる男、ジェレイド。<風の戦乙女>の通称を持つ強大な風の黒魔術の使い手の少女ミーア。ミーアの幼馴染兼護衛役のルーク。
今巻では、ベールセール北の地理に大変詳しい農民で行商人でもあるヴェリック。農民を守り戦いに全てを賭ける武人としての本会を果たす為に、砦に閉じこもった腰抜け領主を捨てた、北の一領主に仕えていた荒々しくも武人としての生き方に忠実なバルティアス。近衛騎士でアレスと面識もあるベールセール北の領地出身のノーラッド。北の王国レアニール連合王国の中の国のひとつ、ミレスデン王国が雇いベールセールに派遣してきた傭兵集団『紅月団』の団長で、殺人嗜好症とも言うべき人を斬ることに愉悦を感じる曲刀使いのグラリオ。他にも色々と、登場人物がさらに増えています。
・シナリオ
「ジェレイドどの。王女として、解放軍に命令を下す、軍勢を率いて王国軍とともに、祖国を守るべく戦うのだ」ともに主張を譲らない和平交渉の場で発せられたクラウディアの提案。すべては民のため—強い意志と揺るぎない信念が紡ぐ王女の言葉に、北の軍から国を救うべく、王国軍と解放軍は互いの手をとりあうことに。しかし軍備を整える間にも、残虐な北の傭兵軍によって村は蹂躙され、人々は虐殺される。危機に瀕する北の民を一刻も早く救うため、一騎当千の力をもつ“赤の悪魔憑き”と“風の戦乙女”二人の英雄は互いの命を預け、ついに共闘す!北の民の命運は今、彼らに託された。(7&YHPより抜粋。)
・感想
今巻は敵対していた王国軍と解放軍とが一時和解して、北から侵略してくるミレスデン王国の斥候との小競り合いが繰り広げられる話です。逃げる農民。農民からの略奪が目的で侵略してくる北の国の斥候の傭兵団。和解したといえども油断できない緊張感の為に防衛のための軍を派遣できないベールセール王国。領主は自分たちの身が最優先で農民を守らない。そんな、農民たちが絶望的な逃亡劇を強いられている中で、家族を守る為に立った一人の農民が話の半分で物語を語ります。もう半分では、王国軍代表のカルレーン公、解放軍代表のジェレイド、そして中立に立ち会談を実現させたクラウディア王女の3人による三頭会談と、対北の侵略国の先陣を切るアレスとミーアという『赤の悪魔付き』&『風の戦乙女』の超人コンビによる戦場での戦いが見られます。
農民ヴェリックの活躍は、所謂ゲリラ戦が見られます。決死隊となり北の侵略国の傭兵集団をヒット・アンド・アウェイで襲撃しますが、決死隊の名が示すようにまさに命を賭けた必死の戦法で、常に最強無敵の戦いを見せていたアレスの戦いなどと比べると対比がスゴイです。凡人には凡人の戦いがある!という感じになっていて、特に戦いの才能があるわけでもない農民が、家族のために必死になる、というところに戦争の哀愁と無常が見られます。
アレスの活躍は最後の最後にのみ、です。ですがその分、北の侵略者である傭兵集団を相手にアレス無双を繰り広げます。単騎駆けで、数千単位で逃げ遅れた農民に襲い掛かる傭兵に襲い掛かるアレス。ミーアの風の加護を受け、弓が効かなくなった状態のアレスは既に怖いもの無し。その上で傭兵集団の無法に怒り心頭で、両手に持った剣を振るうたびに傭兵が絶命する描写が入ります。ですがさすがにあっさりし過ぎていて、今回はアレスの活躍に関して印象が薄かったですね。
女性陣の動向に関しては、クラウディア、シオーネ、エレナがベアトリスと会う展開が待っています。クラウディアとアレスの仲の良さに危惧を覚えたカルレーンによりベアトリスがクラウディアの侍女として派遣され、アレスを暗殺しようとした時のことを微妙に曲解して伝えることでベアトリスはアレスが男女の関係を持ったことがあるとクラウディアたちに誤解させ、関係に波紋を投げていました。この波紋がどんな波を起こすのか、次巻以降での話題に注目ですね。
総じて、今回は農民ヴェリックの決死の戦いの様子がメインでアレスの活躍は最後にオマケ程度で挟まれる、というところです。ですがそれが戦争の悲しさを示すということで強く作用していて、今回はアレスの大活躍を楽しむ、というよりも戦争のもたらす悲劇を見て戦争行為の馬鹿馬鹿しさを思い知る、という感じになっていました。文字通り、『哀鴻遍野』、というやつでしたねー。