神乃崎綾香の魔獣

神乃崎綾香の魔獣

著者・横山忠先生。挿絵・白田太先生。横山先生は第6回スーパーダッシュ小説新人賞で『佳作』を受賞した「警極魔道課チルビィ先生の迷子なひび」及びそのシリーズ作「警極魔道課チルビィ先生の死神のロジック」という作品を出されています。
・登場人物
主人公は力を封じられ、さらに綾香やルーミアに逆らうと心臓を締め付けられる呪い「心の痛み」で行動を縛られさらに綾香と命を共有させられ彼女の死が自分の死となってしまうことから綾香を守護することを強制されるが、元は伝説の魔獣として永劫の監獄で封印されていたガイゼル。
ヒロインは「近づいたものは呪われて死ぬ」と噂されるが超級美少女で神乃崎財閥の令嬢、その身にはある特殊な力が宿っていてそれ故にガイゼルに命を守護されることになるがツンツン少女の15歳、神乃崎彩香。
サブキャラクターは、戦乙女の子供でガイゼルの監視役としてガイゼルと一緒に綾香の元へやってきたルーミア。綾香のクラスメイトでさっぱりした性格の桂木佐久弥。綾香の守護役でいつもピエロのような笑顔でいるがその実は「笑う殺戮者」の二つ名で呼ばれ、ガイゼルを綾香の守護役に命じた張本人でもある天使・アエテュル。アエテュルに仕える牛の神獣、ハピアンク。
・シナリオ
稀代の美少女にして大財閥の令嬢だった神乃崎綾香。綾香には「近付いた者が呪われ、死ぬ」という噂があり、孤独な高校生活を送っていた。そこへ呪いの真実を告げる少年・ガイゼルが現れる。彼は異世界の住人にして、人の姿にされた邪悪な魔獣だった!「綾香を守る。そうじゃないと自分も死んでしまう」と言い出すガイゼル。綾香は無視を決め込むが、次々と襲撃を受ける綾香を守り続けるガイゼルに次第に惹かれていき…。自らを呪いから解放するために少女が必要としたものとは!?超絶美少女と訳アリ魔獣の「美女と魔獣」ファンタジー、開幕。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は、生まれ持った不思議な才能に翻弄される少女とその周囲の存在たちによる物語、ってとこですね。周囲の存在たち、というのがポイントで、神、天使、魔族、魔獣などといったファンタジー存在を指します。つまり天使やその従僕、人、魔族、魔獣が入り乱れ一人の少女に宿っている異能を巡って巻き起こる騒動を書いたファンタジー・アクションもの、ということになりますか。
主人公のガイゼルに関しては若干よくある存在、ということになっています。封印されていた伝説の魔獣が束縛を受けて人の姿され、傲岸不遜にして唯我独尊に周りの存在―――綾香やお目付け役のルーミアに迷惑をかけながら綾香を守護し、時には魔法を使ったバトルをこなす。主人公としての魅力は圧倒的実力とそれに見合わない肉体に制限されている半端な強さ、でしょうか。魔獣などを相手にした戦闘では圧倒的な力を見せるも、「心の痛み」で束縛されルーミアにはあまり強く出れず、綾香を相手にしては口喧嘩になりやはり勝てない。そんなアンバランスさが魅力でしょう。
ヒロインの魅力は巻の最初と最後でえらく主人公―――ガイゼルに対して差の出る態度の変化、でしょう。ツンツンしたお嬢様が自分と関わる人が不幸になっていくことから誰からも距離をとっていたのが、ガイゼルのそんなことは気にしない、という態度と実力から態度を軟化させ、受け入れていくというツンデレがツンからデレへと変わる変化を1巻の間に見事に見せてくれています。
しかしこの作品で一番面白かったところは、個人的には敵役の裏背景、でしょうか。最初から出ていた言葉の意味、守護対象の綾香を守ったり襲撃したりする理由、そういったものを小出しにして徐々に真相を明らかにしていきながらバトルに入る流れは綺麗でしたね。
総じてこの作品は特に目新しい設定などは無いのですが、その分、ツンデレなお嬢様がツンからデレへとなっていくのが目に見えてはっきりわかったり、ガイゼルが精神は魔獣で身体が人、という半端さから来るアンバランスなスタンスという基本要素が面白かったりと、下地そのものが面白い作品、という感じでした。