神曲奏界ポリフォニカ 黒10

神曲奏界ポリフォニカ リベレーション・ブラック

著者・大迫純一先生。挿絵・BUNBUN先生。シェアード・ワールド神曲奏界ポリフォニカ』の『ブラック』と呼ばれるシリーズ作品です。大迫先生は他著作に同レーベルから『ゾアハンター』シリーズ、HJ文庫から『鉄人サザン』シリーズなど出されていますね。
・登場人物
精霊警官で警部補の巨漢の大男、マティアの契約精霊である通称マナガことマナガリアスティノークル・ラグ・エデュライケリアス。マナガと契約している楽士警官である、マナガよりも階級は上の警部の少女マチヤ・マティア。
今巻ではサブキャラクターながら重要な立場に立つ、事件現場でマナガやマティアと縁がある婦警のクスノメ・マニエティカ巡査。
サブキャラクターは、マナガとマティアに父の冤罪を晴らしてもらった事から知り合いとなり、同じアパートで暮らすようになった現在はトルバス神曲学院に通う神曲楽士の卵であるサジ・シェリカ。マナガたちの同僚、イデ・ティグレア検死官。鑑識官のトドロキ・アロサルス。シェリカの友人であるソノミ・フランネ。
今巻で事件に関わる他のキャラクターは、マニエティカの警察学校時代の友人で、交通事故に会いそれをきっかけに最近まで失踪していたユーティーニ・フィメラ・ディオーネ。被害者となるサノ・コンスタンス。被害者と一緒にいたカスガ・ダンケット。カスガの弁護士であるアリタ・ハイラント。
・シナリオ
「あたし、変だ」突き上げる憎悪と殺意。止められない拳の震え。マティアは自分の中にある制御不能な衝動に戦慄した。殺したい。今すぐに。目の前のこいつを!密室だった現場に残されていたのは、二人の男性と脱き捨てられた女性の衣服。だが部屋の中に女性の姿はなく、男性の一人は不可解な死体となって転がっていた。そこには女性も凶器も存在せず、精霊の出入りも不可能という状況。捜査が進むにつれ、二転三転していく事実。そしてマティアの異変。いったい何が起きているのか!黒のポリフォニカ第10弾。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この巻は第10巻という区切りゆえでしょうか。マティアの原点の話―――彼女がマナガと出会うきっかけになった航空機墜落事故にも関わる、彼女を襲った最初の不幸という、重要な部分が語られる話でした。
この巻で起きた事件はホテルでの不可思議な殺人。上下四方を精霊文字に囲まれ、精霊が一切関知できない場所で右肩から背中に抜けるほど大きくなるという深い切傷で死亡という、不可思議な死に方をした被害者。その現場を、折しも隣の部屋を取っていたマニエティカ巡査と旧友の精霊ユーティーニ・フィメラ・ディオーネが発見する。そこから連絡が入り、精霊事件の可能性からマナガとマティアが関わってくる―――という流れになっています。不可思議な死は果たしてどうやって成されたのか。本当に精霊の手の出せない密室だったのか。それとも精霊の感知しない人間による犯行なのか。その結末にはマティアも関わっていた過去の事件が関わっていて―――と、この巻は密室トリックを暴く話、という形で進みながら、過去に起きた事件から関係者たちの奇妙な縁―――関係性が明かされていき、真相に至る、という形になっています。この関係性が明かされていく所がこの作品のミソですね。
総じて、ひとつの事件から起きた連鎖的な事件、という一面もあるこの作品。連綿と続きかねないこの連鎖を、マティアがぶった切ってしまうシーンが何よりも鳥肌が立つほどに静謐でした。このシーンは逃亡者である過去の犯人への、被害者自身であるマティアの決別、として二重、三重にマティアの成長が見られましたね。また、その前に描かれる過去の事件との関連性に気がついた今回の事件の真犯人とマティアとの邂逅も、互いのことを互いが認識せずにその場に集められていただけに、そしてその2人にしか共感できない感情があるが故に、2人の立場の違いが猛烈なやるせなさ、2人が選んだ道の別々さを際立たせていて、衝撃的でした。ある意味で光と影の道という別々の道を選んだマティアと真犯人の対比がこの作品最大の見所でもあるでしょう。