神曲奏界ポリフォニカ レオン・ザ・レザレクター3

神曲奏界ポリフォニカ レオン・ザ・レザレクター 3 (GA文庫)

神曲奏界ポリフォニカ レオン・ザ・レザレクター 3 (GA文庫)

神曲奏界ポリフォニカ レオン・ザ・レザレクター3

著者・大迫純一先生。挿絵・忍青龍先生による通称『黒ポリ』と呼ばれる神曲奏界ポリフォニカBLACKシリーズでサブキャラクターとして登場した人物を主役に据えて送られるハードボイルドなスピンオフ小説の第3段。
・登場人物
主人公に精霊探偵を名乗るフェニミストな上級精霊レオンガーラ・ジェス・ボルウォーダン。レオンの知人で友人で娘の如く面倒を見てきた女でもあるロレッタ。精霊でレオンを敵視しながらも何だかんだで一緒にいる猫の姿のセヴニエーラ。
この巻で登場するのは、レオンを「パパ」と呼ぶ少女、サナことサノアトリカ。サナの母親の元神曲楽士のシロサキ・マデリーナ。遊び人で危険な遊びに手を出した結果、レオンに助けられる事になるミサワ・ウォルトン。所謂悪党のギャングで、冒頭でレオンに仕事として殺されるが後々までその存在が色々な波紋を投げかけるコムロ・ドゥウェイン。以前のレオンの仕事で敵対関係として知り合った、トンファーを使う戦いをする上級精霊のロザム・ヴォダ・ゴードック。そんなロザムの今回の雇い主で、コムロ同様の悪党ギャングであるクギョウ・ディオネアルサ。レオンの知り合いの婦人警官で、たびたびレオンの仕事上で鉢合わせるサムラ・アレクシア巡査部長。
・シナリオ
もともとは、ギャングの仲間入りしちまった莫迦な坊やを連れ戻す、ってだけの話だった。ボスもろとも組織を壊滅させちまったのは、もののはずみってやつだ。ところがそこで幼い女の子を発見、なんてのは完全に想定外…いきなり抱きつかれて、なに!?俺がお前さんのパパ!?おまけにママは、かつての俺の契約楽士で、しかも行方不明?どうなってんだよ、こりゃあ!?「ママに逢いたい…」サナの哀願に応えた俺は、しかし自身の存在さえ脅かす事件に、ついに直面することになっちまった。(7&YHPより抜粋。)
・感想
このシリーズの作品は同じ作者が書いている黒シリーズを、闇の中から法律の光の下に悪党を引き出して事件の罪を償わせるものとするなら、このレオンシリーズは、法律の光の届かない場所にいる闇の中の悪党の元へレオンが向かい、罪を償わせる作品―――そんな、黒シリーズとは180度まったく逆のベクトルの作品だと思います。社会の闇の中、法の手の届かない場所で嘆く母娘が居る。レオンはそんな彼女たちを助ける為、娘の願いに応えて母を探す手助けをするが、その先でレオンは、これまでにレオンが愛し、そしてその元から去っていった過去の女の末路を見ることになる―――そんな、暗く、苦しく、救いの無い、闇の中でもがく女たちと、それに過去に関わり、今現在も関わるレオンの物語が今回は見られます。
今回の話はかなりヘビーな話…まさにそうとしか形容の出来ない展開です。レオンの生き方―――短い間に次々と契約楽士を変え、しかしその全ての女を全力で愛していく、というレオンの精霊としての生き方。今回はそんなレオンの生き方で、しかし幸せになれなかった、身を持ち崩してしまった元・契約楽士とレオンが再開する、という話です。レオンとの別れが彼女の人生の悪い意味での転換期となってしまっただけに、レオンと再会した時の彼女の嘆き、憤りの激しさは目を見張るものがありますね。
そして運命の悪戯―――サナと、サナの母親と、サナの父親とのレオンの関わり様はまさに運命の悪戯としか言えないような複雑さにして悲劇。山場で挿入されるレオンとマデリーナが初めて出会った時のことを思い出すレオンの姿は、その当時があまりに光り輝いていたからこそ今のどん底の姿を引き立て、悲しい物して見せていました。そしてそんな悲劇の下敷きがあったからこその、マデリーナがもう一度レオンに対してした演奏が、ロザムが哀れみ、見るものを引かせて、レオン自身も苦しませるものとなったのはさにあらんや、むべなるかな。というものでした。
総じて今回の話は、かなり生々しく『生きる』ということを語る話でもあり、また男と女の別れが引き起こした悲劇であり、どうしようもなく救いの見えない哀れな話です。しかし、その奥底を覗いてみると、そこには娘を愛し案じる母の愛が確かにあり、そんな母娘を生み出してしまったレオンが後悔と悲哀と苦悶にまみれながらも、それでも修復できない絆のためにしてやれることをする、という過ぎ去った男と女が一時だけまたふれあう、悲しく苦しい愛憎の両方に溢れた物語でした。
そして最後の展開…ここから、サジ・シェリカと出会うその時というのに、どう繋がっていくのか―――シェリカと出会うまでに、彼に何が起きるのか。
次巻が今から、待ち遠しくてなりません。