オウガにズームUP!

オウガにズームUP! (MF文庫J)

オウガにズームUP! (MF文庫J)

オウガにズームUP!

著者・穂史賀雅也先生。挿絵・シコルスキー先生。穂史賀先生は「暗闇にヤギを探して」(MF文庫J)で第2回MF文庫Jライトノベル新人賞を受賞されています。シコルスキー先生とはその時にもイラスト担当で、「十三番目のアリス」シリーズ(電撃文庫)「パラレルまりなーず」シリーズ(GA文庫)「カンピオーネ!」(スーパーダッシュ文庫)など、数多くの出版社から出されている作品の挿絵をかかれていますね。
・登場人物
主人公は両親と死別していて最近共学高になったばかりの高校に通っている、高校になったばかりで井上ククルの角を触ってしまい結婚することになった犬伏ユージ。ヒロインは異世界から来たオーガという種族で角を持っており、角に触れた異性を殺すか夫とする、という掟からユージを夫とした井上ククル。
サブキャラクターには侍喫茶を経営する侍大将(経営者)の鈴蘭。ユージの実の姉、警察庁に勤める敏腕刑事の犬伏涼子。
他、クラスメートやククルの父、侍喫茶の店員達などが登場します
・シナリオ
犬伏ユージが学校にも秘密にしていること。それはクラスメイトの井上ククルと結婚し、同棲までしているということだ。しかしユージは「自分がロリコンだったらこんな状況も喜べるけど…」と醒めている。この春から共学になった秋島学園で、どんな素敵な彼女ができちゃったりするんだろう、なんて思いを馳せていたのに、目の前にいるククルは小学生のような未発育ぶりなのだ。そもそもなぜククルと結婚なんてするハメになったのかというと…?ユージの、秘密の学生結婚生活が始まる。素敵に不思議な雰囲気でほんわかと楽しい、穂史賀雅也ワールド最新作です。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は主人公とヒロインの秘密夫婦生活によるスラップスティック系のドタバタコメディ作品ですね。
異世界―――夜の国―――と、繋がることがある町、秋島市に住む主人公の犬伏ユージが、ふとしたことで同じクラスの井上ククルの秘密―――『異世界の住人である』という事を知り、さらにそのククルの種族のしきたりを知らずに破ってしまった事で年齢的にも社会的にも問題ながら夫婦生活を強いられるということになり、そんな中で過ごす高校生活の模様が出来事ごとに区切られながら綴られています。
収録されているのは全部で5話。ユージとククルの秘密夫婦生活がどういうものか、ということを説明するような内容となっている第1話「若奥様の生え替わり」。ユージとククル、2人の出会いと2人が夫婦となる事になった出来事を書く第2話「午後十時五分五十二秒」。ククルとの関係をたった一人の姉にも秘密にしていたがついにそれがばれる事になる話、第3話「姉、帰る」。夫婦間の間に軽い倦怠感―――或いは擦れ違いのようなものを感じたククルが、『相手に言う事を聞かせられる薬』というものを使ったことでユージとの関係の居心地の良さの理由を知る第4話「ホットケーキのおいしい食べ方」。ククルとは別の夜の国の種族が、ククルを狙って秋島市に来ていてそれとユージが相対したりする第5話「初夏のテンペスト」となります。
主人公であるユージは、姉には頭が上がらなかったりロリコン体型なヒロインのククルに惹かれながらも否定する、という微妙にヘタレ気味という典型的な主人公ですが、敵にククルの引渡しを誘いかけられた時、即座に否定するなど妙に男気のあるところも見せたりするまったく主人公気質な主人公でした。典型的過ぎて面白みが無い、と言えばまさにそうですが、安心して感情移入できる行動を取る主人公というものでした。
ヒロインのククルはツンデレ風味という昨今ありがちではありますが、それでもスタンダードになりつつあるキャラクターとクラスメートである、というだけのユージのために体を張れる気概の強さがあります。加えて半ば状況でなった夫婦関係を、それでも円満にしようと色々努力する姿が魅力的でした。
少し気になったところとして言えば、この作品は大量の女子クラスメートの設定などを最初に出しながらその中で活かされているのは数人だけというものになっていて、そしてこの巻ではそれらと関係の無い『夜の国』住人たちの話ばかりが前面に押し出されていたことから見ても、学園生活風景と夜の国住人関係での話の、二種類で物語が進んでいくのかな、と思える展開でした。
総じてこの作品は、先にも書きましたが学園生活の中でのククルとの秘密夫婦生活と夜の国住人関係の少し不思議な世界観での話との二種類で進んでいくという、二種類の要素で出来ていると思いました。
暗闇にヤギを探して』で見られた、穂史賀先生の男女間の気持ちの揺れ動きを書く部分が学園生活風景の部分なら、夜の国住人関係の部分で穂史賀先生はこれからどんな手腕を見せてくれるのか、そこに期待ですね。