ほうかご百物語3

ほうかご百物語

著者・峰守ひろかず先生。挿絵・京極しん先生。第14回電撃小説大賞で”大賞”を受賞した作品の、続刊第3巻です。
・登場人物
主人公な美術部員で、綺麗なものを前にすると衝動的に描きたくて仕方なくなってしまう性質を持つ、妖怪を引き付けやすい体質の白塚真一。ヒロインで怪異が出現しやすくなった学校という場所に引かれて出現したイタチの妖怪変化、”イタチさん”こと伊達クズリ。メインはこの2人で。
後は、美術部所属だが妖怪に並々ならぬ関心があり美術部を自称”怪異研究部”の部室にしようとしている経島御崎、生徒会長で経島の彼氏でもある江戸橋照平、生徒会副会長兼新聞部の女生徒、新井輝、美術部所属の、真一の友人で同級生の穂村、穂村と同じで美術部所属だがその正体は古い天狗と言う奈良山善人、真一のクラス委員長で犬神使いとなった滝沢赤赤音、イタチさんと同じ怪異で狐の妖怪である英語教諭の稲葉前先生などが登場します。それから名前しか出てこないような”怪異”たち、名前を持って真一たちと出会い時には敵もいたりする怪異たち、といったところが登場人物でしょうか。
今巻では新キャラクターとして、穂村がバイトしている温泉旅館の孫娘という箕輪八雲、その祖父の箕輪慈五郎、奈良山の知人の木の葉天狗の求道坊、古典教諭だがとある妖怪に憑かれる粂神。これらが登場します。
・シナリオ
美術部の幽霊部員・穂村からのSOSメールで、雪深い温泉宿へ向かうことになった僕とイタチさん(と、その他の面々)。イタチさんとの温泉旅行にワクワクを隠せない僕だけど、着いた先では衝撃の出来事が待ち受けていて!?イタチさんとの冬休みは、他にもドキドキな事件がいっぱい。パンツ一枚の怪人には襲われるし、イタチさんのニセモノ(!?)が登場するし、稲葉先生はなぜか大ピンチだし。(イタチさんがいてくれれば、僕的には万事OKなんですが)そんなワケで、ピュア可愛いイタチさんと僕の放課後不思議物語、第14回電撃小説大賞“大賞”受賞作第3弾登場。(7&YHPより抜粋。)
・感想
第14回電撃小説大賞で<大賞>を受賞した、美術部の白塚真一君を主人公に、学園の部活動として妖怪退治とかしたり妖怪と仲良くしたりするゆるゆるとした退魔もの作品。その第3作目です。
今巻は全5話収録+おまけ話で合計6話。それぞれ第1話「光あれ!―――或いは、火取魔の事」第2話「幸せの形―――或いは、雪女の事」第3話「男なら―――或いは、木の葉天狗の事」第4話「二人きりの世界―――或いは、天邪鬼の事」第5話「精一杯の冴えたやり方―――或いは、白澤の事」。これらに補話「持ち帰ったのは何ですか?―――或いは、迷い家の事」を加えて6話です。
話の展開は第1話と第2話はひとつの舞台での話で連続した物語。第1話は温泉旅館にバイトに行っていた穂村に妖怪が出たので助けてくれ、と呼ばれて美術部一同に赤赤音や新井輝が同行して行く遠方での妖怪退治話で、第2話はその温泉旅館で別の妖怪と人間のカップルに出会い、真一とイタチさんの関係の未来図の一つを見る、的なもの。第3話は独立していて、奈良山の知人で奈良山を師匠と仰ぐ木の葉天狗の求道坊がやってきて、求道坊のちょっと肉体派なコミニュケーションに真一たちが苦労するというもの。第4話は第5話の大きな話の前触れを書く、という前章的な話で偽イタチさん登場の回ですが、この話の肝は真一の既に変態的とさえ言える「イタチさんへの愛のパワー」が明々白々と書かれていることですかね。そして第5話、第4話で登場の天邪鬼の裏にいた存在が前に出てきて、美術部一同大ピンチ!ですが機転を効かした真一の活躍で意外な人の活躍で窮地を脱する、というもの。補話は第5話が終わった後の、ちょっとした後日談的なもの。そんな流れになっています。
今巻は「火取魔」「雪女」「木の葉天狗」「天邪鬼」「白澤」「老鼠」などなど有名どころの妖怪とマイナーな妖怪がバランス良く出ていて、まったくどんな妖怪か想像がつかなくて説明からイメージするばかり、ということも無くて読みやすかったです。また前巻、前々巻の妖怪も再登場していて結構大盤振る舞いなイメージでした。ある意味3巻ということで過去の妖怪も登場させて、物語的にひとつの節目、っぽくしてあったとも思えますね。
登場キャラクターたちについて書けば、相変わらずこっ恥ずかしいくらいストレートに思った事を直接ヒロインたちに告げる珍しい主人公として白塚真一は輝いていましたし、イタチさんはそんな真一の言動にやや振り回されながらもヒロインとして愛らしく可愛らしく、時に凛々しかったです。メイン2人は期待通りでしたが、サブキャラクターたちもその役目をしっかり果たしていて登場する人の存在に無駄を感じさせません。解説、説明役の御崎に顔の広さで妖怪としての立場から真一たちを助ける役目の奈良山、物語導入の便利キャラとしての穂村、妖怪相手の時の一般人としての立場の新井輝、犬神使いとして実は登場人物たちの中で唯一、真一を妖怪戦でサポートできる赤赤音など、メイン登場人物が前巻で揃って猿神を退治して以来の、仕切り直して進められた物語という感じです。それぞれの立場が結構はっきりとしていましたね。
総じてどれも1体の妖怪が新登場し、飽きの来ない話になっていましたが前巻、前々巻と比べると妖怪の現象を逆手にとっての妖怪退治譚的な話は薄くなっていて展開がやや単調になっていました。その点では少々残念ではありましたが、真一のイタチさんの関係の先輩とも言える人たちが登場していたり、稲葉先生がそのキャラクターを崩さないまま、九尾の狐の面目躍如の活躍をしていたりと端々に今後に関しての伏線っぽいのや既存のキャラクターのカバーがあって面白みがじわじわと滲んでくるような作品でしたね。