火の国、風の国物語2

火の国、風の国物語2 風焔相撃

著者・師走トオル先生。挿絵・光崎瑠衣先生。師走トオル先生は富士見ミステリー文庫で口先弁護士による痛快裁判小説「タクティカル・ジャッジメント」シリーズを書かれています。
・登場人物
主人公は両手に騎士剣を持って戦う豪腕の双剣騎士、近衛騎士であることを示す赤い鎧と貴族である事を示す赤いマントを同時に身につける建国の英雄初代ファノヴァールから数えて4代目のファノヴァール家当主、アレス・ファノヴァール。何者かに仕える使い魔の如き謎の存在で、アレスに取り憑いて事有るごとに怪しげだが的確な助言を与える、アレス以外にはその目に映らない少女の姿をした魔性、パンドラ。
サブキャラクターは、過去にアレスにより暗殺されるところを救われ以後はアレスの主君として存在している、物語の舞台となるベールセール王国の13歳の王女クラウディア。アレスの義妹で傷を癒す白魔術が使えるアレスに従う従軍神官のエレナ。アレスの従者で怪力を持つドワーフ族のガルムス。伊達男の近衛騎士でアレスの力量に目をつけ、アレスの副官に納まったローラン。クラウディアの侍従シオーネ。アレスの愛馬オルトス。アレスの剣の師匠で黒魔術師でもあるイザーレ。地方の領主で圧制を強いており、その為アレスに討される相手となるガザーブ。ガザーブの息子で剣の腕に自信がある為、アレスに戦いを挑むレオン。圧政を敷く北の地方の領主で見るからに悪代官、という感じの領主ボルネリア侯。ボルネリアで起きた反乱に対する王国郡の総大将で軍人気質な近衛騎士、ブライアン将軍。ブライアン将軍の息子で典型的な駄目な二代目、という近衛騎士オニール。ブライアン将軍に従う副官でアレスの力を認めている数少ない近衛騎士、ベルフェルド副将。
今巻からはさらに「風の国」側の面々が登場します。ベールセール解放軍を名乗る一団の指導者ジェレイド。<風の戦乙女>の通称を持つ強大な風の黒魔術の使い手の少女ミーア。ジェレイドと同郷の猟師で弓の腕には高い評価があるマシュー。ミーアの幼馴染兼護衛役のルーク。ジェレイドの養女で白魔術が使えるソフィア。ソフィアを大事に思う少年のクライス。変わり者のエルフで精霊の力を使い遠距離の的にも難なく矢を当てる弓を使う傭兵、リーエンノール。
他、今巻でも名前だけある敵役など数多くの登場人物が出てきます。
・シナリオ
この戦には必ず勝たねばならない。たとえいかなる犠牲を払ってでも。青年は城壁から平原を見下ろしていた。敗北は反乱軍の解体と同義なのだから。不落として名高い城砦を陥落させた反乱軍の若き指揮官・ジェレイド。だが、まだ一息つくには早い。目の前には王国軍の大軍が迫っていた。一方、アレスの姿は戦場になかった。著しい戦果を上げた彼は仲間の嫉妬をかい、戦果の報告の命で王都に帰還する。王女・クラウディアの力を借り戦線へ復帰を果たす彼を、さらなる試練が待ち受けていた。トゥールスレン平原で対峙するは王国軍一万に反乱軍一万四千。英雄激突!いざ開戦の時。(7&YHPより抜粋。)
・感想
前巻が最初の巻でアレスの巻とでも言うべき1人の視点―――「火の国」の視点に特化した巻であったなら、今巻は火の国、風の国の両方の視点で物語が語られる巻です。
ベールセール王国軍とベールセール解放軍(反乱軍)が相対する平原の中央に位置する強固な要所、トゥールスレン城塞。第2巻はこのトゥールスレン城塞を解放軍がミーアの風の力を用いて電撃的に陥落させるところから始まります。王国軍の橋頭堡となるはずだった城塞を奪取した事で逆に王国軍の頭を抑えることに成功した解放軍が、ジェレイドの指揮の元で防備を調えながら王国軍との決戦に備えていく。他方、王国軍は―――アレスは、キホルテ平原で立てた戦功により、皮肉にも一部の仲間の騎士達に疎まれるようになっていた。謀略に謀られながらもなんとか帰還するアレスの次の戦場は、背に崖を背負う砦。1000人が駐留するそこを、寡兵たる300足らずで攻めることになる。アレスは再び超人的手法にて砦を攻略する―――。そして平原での戦いが巻き起こる時、両者が交錯する―――そんな感じで、ジェレイドたち解放軍側、アレスたち王国軍側、という2つの陣営の模様がこの巻では語られています。
アレス側の話は二極的です。アレスと義妹エレナや王女クラウディアとの話の時は典型的なラブコメっぽくなりますが、戦場でのアレスの話になると一気に血生臭いながらもアレスの超人的な爽快感溢れる活躍が見られます。ただ、今巻のアレスの超人的活躍は日本の過去話に曰くの源義経を想起するもので、新鮮味はありませんでした。源義経・洋風戦記ファンタジー版、としか感じられませんでしたね。しかし再度寡兵で大軍(3倍差)を下していますので、そんな爽快物語が読みたいなら丁度良いかと思います。相変わらずアレス最強伝説は続いていて、アレスが出てくると「さぁコイツは次はどんなことをしてくれるんだ!?」と何やら期待してしまいます。今巻では戦闘だけでなく、戯曲の如き宮中内での暗躍にアレスが関わります。その暗躍の阻止方法も愚直ながら、だからこそ最短距離でかつ自分以外誰も傷つけないという、アレスらしい方法でした。パンドラの驚き呆れる顔が容易に想像できますね。それに今巻からアレスたちの一団に新しい仲馬、もとい仲間のオルトスが加わりました。古来より超人武芸者には馬が良く似合います。羅王に黒王号がいたように、東方不敗・マスターアジアに風雲再起がいたように、アレスには然り、オルトスとなります。超人と超馬のコンビの初陣。人と思えぬ人と、馬と思えぬ馬のタッグの活躍に、読み進む手が止まりませんでしたね。
ジェレイド側の話は、指導者であるジェレイドがどういう人物なのかを彼が解放軍を指揮する様子から感じ取れる―――そういう形になっている話です。解放軍が立った理由の過去話などはこの巻ではあまり語られておらず、トゥールスレン城塞を下した後の解放軍の様子が語られます。
そういった諸々が語られた後で王国軍と解放軍の激突が起き、今巻の最大の目玉―――アレスとミーアの初の激突が書かれます。と言ってもニアミス程度ですが。どちらも常人を超えた存在として、戦記ファンタジーから逸脱気味ながら燃える展開が見られます。今後の2人の動向―――再度の激突は何時なのか、など気になりますね。
総じて今巻から完全にアレス側―――ベールセール王国軍側の話ばかりだった第1巻に比べ、ようやく「火の国、風の国物語」というタイトル通りの話になってきたな、という気がしますね。