火の国、風の国物語1

火の国、風の国物語1 戦竜在野

著者・師走トオル先生。挿絵・光崎瑠衣先生。師走トオル先生は富士見ミステリー文庫で口先弁護士による痛快裁判小説「タクティカル・ジャッジメント」シリーズを書かれています。
・登場人物
主人公は両手に騎士剣を持って戦う豪腕の双剣騎士、近衛騎士であることを示す赤い鎧と貴族である事を示す赤いマントを同時に身につける建国の英雄初代ファノヴァールから数えて4代目のファノヴァール家当主、アレス・ファノヴァール。何者かに仕える使い魔の如き謎の存在で、アレスに取り憑いて事有るごとに怪しげだが的確な助言を与える、アレス以外にはその目に映らない少女の姿をした魔性、パンドラ。
サブキャラクターは、過去にアレスにより暗殺されるところを救われ以後はアレスの主君として存在している、物語の舞台となるベールセール王国の13歳の王女クラウディア。アレスの義妹で傷を癒す白魔術が使えるアレスに従う従軍神官のエレナ。アレスの従者で怪力を持つドワーフ族のガルムス。伊達男の近衛騎士でアレスの力量に目をつけ、アレスの副官に納まったローラン。クラウディアの侍従シオーネ。アレスの剣の師匠で黒魔術師でもあるイザーレ。地方の領主で圧制を強いており、その為アレスに討される相手となるガザーブ。ガザーブの息子で剣の腕に自信がある為、アレスに戦いを挑むレオン。圧政を敷く北の地方の領主で見るからに悪代官、という感じの領主ボルネリア侯。ボルネリアで起きた反乱に対する王国郡の総大将で軍人気質な近衛騎士、ブライアン将軍。ブライアン将軍の息子で典型的な駄目な二代目、という近衛騎士オニール。ブライアン将軍に従う副官でアレスの力を認めている数少ない近衛騎士、ベルフェルド副将。
他、今巻限りの敵将として出てきたりするなど名前持ちが多い為割愛しますが登場人物の多い作品です。
・シナリオ
血しぶきが飛び散る。12歳の少年はその時、真の戦場にいた—。鼓動が高まり、足がすくむ。自分は無力だ—。だが、あの少女だけは護らなければ。未来につながる命だけは。そして、少年—アレスは決めた。護るために、ある契約を行おうと、謎の精霊と…。“森と麦穂の国”ベールセール王国に起こった争乱。それを平定するために、騎士として起つと決めたアレス。幼少の頃より剣の才を認められた彼には、ある秘密があった—。大きな歴史のうねりが重なり、壮大なる歴史絵巻の幕が開く。
(7&YHPより抜粋。)
・感想
スケールの大きい、典型的な洋風戦記ファンタジー物語!というところですね。人と精霊と亜人間がいて、剣と魔法で戦い、戦場を飛び交うは伝令の風の魔法や人力にて弓弦が引かれて飛ぶ矢。戦となれば千や万単位の軍勢が動く姿が描写され、決闘となれば洋風の甲冑を着た主人公が双剣を手に強力自慢の大剣戦士と切り結ぶ―――そんな、これぞファンタジー!という感じで。指輪物語とか、ナルニア国物語とか、そんなイメージです。
物語は“麦と穂の国”或いは“森と麦穂の国”と呼ばれる封建制の王国、ベールセール王国で起きる内乱を舞台にしたもの。その群雄割拠する戦乱の中に1人の騎士がいた―――。内乱の中、活躍する赤い鎧と赤いマントをした双剣の青年騎士が主人公となります。
基本的には主人公として書かれるアレス・ファノヴァールを追いかける話がこの巻です。彼が内乱が起きる前までどのように過ごしていたのか、彼が双剣を持つ理由、王女クラウディアとの親交の様子、内乱に巻き込まれた故郷に戻った時のアレスの様子、などなどが第3者視点を中心に語られます。続刊では別の視点…アレスがタイトルの「火の国」の部分としたら、「風の国」部分となる敵将側の舞台を第3者視点で物語が語られたりする事もあるようですが、この巻に限って言うとアレスの視点のみで物語は進んでいきます。
主人公のアレスは、主人公だけあって「最強無敵だが女性関係に弱い男」として書かれます。単騎にて戦場を駆け、怪しげな魔女パンドラの助言により忍び寄る不意の死や命に関わる謀略をも退け、決闘に於いては破れ知らず―――しかし知らずに思いを寄せられるクラウディア王女や、まだ自分の感情にも気付いていない義妹エレナから向けられる思慕には朴訥―――そんな、王道的な主人公像を見せてくれます。また主人公が「最強無敵」なだけあり、戦場においてアレスが特にピンチになることはこの巻ではありません。むしろ普通勝てない状況、あるいは誰もが苦戦する相手に圧勝して見せるなどして、アレスの剣の才の天性をもう結構と言いたくなるほど見られます。そんな単騎にてよく大軍を破る、という燃える展開には胸躍りますね。
文体にも「後の世に―――と語られる事になる、その初陣であった。」的なとても大きな話の一端として演出があったりして、物語のスケールの大きさがにじみ出ています。その中で主人公が為す役割は―――?というように、読み進める先に読み手に壮大な展開の期待を抱かせてくれます。
総じてこの作品は相当に王道的な戦記ファンタジー・ストーリーです。謎の存在から助力され、その力を持って大きな戦乱の中を生きていく主人公。果たして謎の存在の目的は何なのか。それはさて置いても戦乱の中、主人公がどんな生き方をして、どんな未来に向かっていくのか。彼がこの先どれだけの戦いの中でどれだけの英雄的行為を重ねていくのか―――そういった色々な未来に読み進める内に心が躍る、そんな作品でした。
最後に付け加えると。遊びなのか狙ってなのか偶然なのか明らかではありませんが、登場する地名に微妙に何処かで聞いた事があるような言葉をもじったようなのが…ヒントはDQ3、ですかね?(ぉ