鋼殻のレギオス10

鋼殻のレギオス10 コンプレックス・デイズ

著者は第15回ファンタジア長編小説大賞佳作「マテリアルナイト 少女は巨人と踊る」でデビューした雨木シュウスケ先生。挿絵・深遊先生。深遊先生、清瀬のどか先生による2種類の漫画版もあり、TVアニメ化もされます人気シリーズの第10作目です。
・登場人物
主人公は、かつて武芸が盛んな槍殻都市グレンダンで『天剣授受者』と呼ばれる12人の最上級の武芸者の1人にまでなったが、武芸者の誇りを汚す行為で都市を放逐されて学園都市ツェルニで1からの再スタートを志すレイフォン・アルセイフ。ヒロイン1、レイフォンに目をつけて自分の小隊にスカウトした、都市を守りたいという強い意志と信念を持つ普通の武芸者の女生徒、ニーナ・アントーク。ヒロイン2、ニーナの小隊に所属する天才的才能を持つ念威操者だがやる気の無い少女フェリ・ロス。ヒロイン3、入学式で起きた暴動でレイフォンに助けてもらい彼に思慕の念を抱くようになる新入生、引っ込み思案で気が弱いが料理が好きなメイシェン・トリンデン。
サブキャラクターは、フェリの実の兄でレイフォンたちが住む学園都市ツェルニの生徒会長、カリアン・ロス。メイシェンの幼馴染で記者志望の元気娘なミィフィ・ロッテン。メイシェン、ミィフィの2人と揃って3人で交通都市ヨルテムから来た、第17小隊メンバー入りした正義感の強い姉御肌のナルキ・ゲルニ。ニーナが小隊長を務める第17小隊の隊員で軽い性格の狙撃手、武芸者のシャーニッド・エリプトン。ニーナの幼馴染で武芸者が使う<錬金鋼>のメンテナンスをするハーレイ・サットン。レイフォンと同じ槍殻都市グレンダン出身の武芸者で、化錬剄と呼ばれる変幻自在な戦法ができる特殊な剄を使った武技で戦う第5小隊の隊長、ゴルネオ・ルッケンス。第5小隊の副隊長でゴルネオと同じ化錬剄を使い、炎を使った攻撃をするシャンテ・ライテ。
今巻で初登場するのは艶やかな長い黒髪の女学生、エーリ。初登場というわけではないですがあまり表にはっきりとは出てきていなかった―――話の筋に絡む活躍をしては来なかった武芸者、ディクセリオ・マスケイン。
・シナリオ
甘い香りとともに、今年もまたツェルニにその日がやってきた。「ばかばかしい」。愛の告白の代わりにお菓子を贈るバンアレン・デイ。その宣伝ポスターの前でフェリは呟き、無表情のままため息をつく。どうせアレは、ツェルニ中に漂うこの甘ったるい空気に気付くこともなく、いつも通りの日をぽややんと過ごしているに違いないのだ。「…ばかばかしい」。フェリはもう一度、呟いた。同じ頃、ニーナはディックと名乗る、不思議な雰囲気を漂わせた青年と出会う。その出会いが、後にもたらす真の意味を知らぬままに—。バンアレン・デイを巡る3つの物語のほか、自律型移動都市誕生の謎にまつわる因縁を描いた、中編書き下ろしを収録。(7&YHPより抜粋。)
・感想
今巻は長編、短編、長編と交互に出ている本シリーズの、短編の巻です。
バレンタイン・デー…その鋼殻のレギオス世界版となる『バンアレン・デイ』。その日に纏わるエピソード『ア・ディ・フォゥ・ユゥ』の01〜03、それとその前後や途中の出来事となる『スイート・デイ・スイート・モーニング』、『スイート・デイ・スイート・ビフォア』×3、『スイート・デイ・スイート・ミッドナイト』などのショート・ショート的な作品、それとバンアレン・デイとはほぼ関係の無い短編―――ディクセリオ・マスケインの話である『槍衾を征く』を収録したのが今巻となります。
『ア・ディ・フォゥ・ユゥ』に関しては01がフェリ視点、02がレイフォン視点、03がニーナ視点での、それぞれのバンアレン・デイの過ごし方、という感じになっています。01ではバンアレン・デイということでレイフォンにお菓子を作って渡そうと思うも、自分の料理下手は自覚しているフェリだけに躊躇したりして右往左往しているフェリ―――と言う姿が見られます。02ではレイフォン視点。フェリがお菓子をレイフォンに渡そうか渡すまいか迷ったり、いざ渡しに行ったりした時にレイフォンはどういう状況だったのか、ということが見られます。03ではさらに別の視点、ということでフェリともレイフォンとも違うニーナの視点になります。バンアレン・デイでレイフォンが都市警の要請を受けて援護に出たりフェリがお菓子のことで悩んだりしていた頃、ニーナは謎の男を発見し、さらには狼面衆とも遭遇して―――と、バンアレン・デイという日を3者の視点、3者の過ごし方が書かれています。この『ア・ディ・フォゥ・ユゥ』は01より02、02より03という感じにシリアス度が高まっていきますね。つまり01という話のコメディっぽい部分の裏では実はシリアスな展開が進んでいて、それは02よりも03でより深く重い話がされていて―――と、読むごとに話の裏側が見えてくる形になっていて奥が深いです。ただ01を読むだけではわからない部分、意図的に隠されていて見えない部分が後のエピソードを読むとわかる、ということで面白い構成でした。
『スイート・デイ・スイート・モーニング』、『スイート・デイ・スイート・ビフォア』×3、『スイート・デイ・スイート・ミッドナイト』などのショート・ショート的な作品は、それぞれバンアレン・デイの当日の朝、前日、バンアレン・デイの後の夜、となっていてそれぞれにメインとなる女の子が出ています。モーニングではニーナ。ビフォアではメイシェン、ミィフィ、ナルキ。ミッドナイトではフェリの、それぞれの乙女な所やコミカルな所が見られます。
そして『槍衾を征く』では、謎の男としてこれまでその存在は語られても正体や人となりなどが不明瞭だったディクセリオ・マスケインがついに本格登場します。以前の巻で触り程度だけ語られた「ニーナが『迅雷』を覚えた経緯」「ニーナと狼面衆との出会い」「ニーナが廃貴族に憑かれた理由」などが語られますので以外に重要な話だったりします。
総じて、まずこの巻は現在刊行中の9巻よりも前の話というタイム・テーブルになりますので、第9巻までの長編でニーナが使っていた剄技である『金剛』が覚えたてだったり、まだ『迅雷』が使えなかったりとしていて若干戸惑うかもしれませんね。