アリアンロッド・サガ・リプレイ1

アリアンロッド・サガ・リプレイ1 戦乱のプリンセス

著者・菊地たけし先生&F.E.A.R.。挿絵・佐々木あかね先生&安達洋介先生。菊地先生は『世界の危機』なシナリオが大好きな名物GMで、『セブン=フォートレス』『ナイトウィザード』シリーズのTRPGシステム開発者ですね。佐々木先生は多くのアリアンロッド作品の挿絵を描かれるイラストレーターで、他にも漫画家としても活躍されています。
・登場人物
PC1、大竹みゆ女史扮するはアルディオン大陸西方の強国レイウォールの第2王女にして本作ヒロイン、世間知らずお姫様な水の魔法の使い手、ルミナスドラゴンの幼生体でヤンヤンと名付けた子ドラゴンを連れた種族・ヒューリンでウィザード/サモナーのピアニィ・ルテナベール・レイウォール。
PC2、クレバー矢野氏こと矢野王子が扮するは剣聖テオドールの弟子、斜に構えた性格の二刀流剣士、種族・ヒューリンでウォーロード/サムライのアル・イーズデイル。
PC3、前作―――無印やルージュ、ハートフル作品までの舞台だったエリンディル大陸とアルディオン大陸とが繋がりのある世界であるという実証の為に抜擢された、大畑顕ことOはた氏が扮する超・三下性格が光るクラン=ベル四英雄と呼ばれたこともある種族・ヴァーナ(狼娘)でリビルド・ルールで過去とはクラスが変わってスカウト/ダンサーとなったベネット。
PC4、鈴吹太郎社長が扮するは天才軍師サザーランドの弟子として、ピアニィたちをサポートする若き軍師の役目を背負った新種族・ドラゴネット(竜人)でプリースト/フォーキャスターのナヴァール。
NPCとしてはピアニィ付きの執事で魔法も使えるエレガントかつおいしいお爺さんキャラ、タスラム・コネリー。ピアニィの姉、ナヴァールの妹弟子のレイウォール赤竜軍団の将軍でもあるステラ。ステラ、ピアニィの兄でレイウォール第1王子のヒューバート。ヒューバートの腹心の将軍、迅雷の2つ名を持つキンバリー。ピアニィの母、ティナと面識のあるバーランドのレジスタンス指導者ナイジェル。ナイジェルの孫で執政官の警備隊隊長を務めるネルソン。レイウォールから派遣されたバーランドの駄目執政官。
・シナリオ
アルディオン大陸の西方にある、強国レイウォール。“赤竜王国”のふたつ名を持つこの国にひとりの王女がいた。ピアニィ・ルティナベール・レイウォール—動物すら魅了する不思議な歌声を持つ彼女は、王宮で幸せな日々を過ごしていた。そんなピアニィに突如として降りかかった陰謀。それは大陸全土を戦乱の時代へと誘う引き金となる事件であった—。プレイヤーに声優の大竹みゆを起用。鈴吹太郎矢野俊策、大畑顕ら人気プレイヤーも参戦し、物語を大いに盛り上げる。リプレイの名手菊池たけしとF.E.A.R.が贈る、アリアンロッドの大型企画「サガ」シリーズ、ここに開幕。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品はアリアンロッドの長大な叙事詩(に、なる予定)の『サガ』と呼ばれるシリーズの記念すべき第1作目にして、レイウォール第2王女ピアニィの物語です。
『サガ』の名前が示す通り、この作品は『戦記』をモチーフにしたもので巻き起こる戦乱に巻き込まれた王女のピアニィが仲間を集めながら、その戦乱の中で何かを為していく―――少なくとも、第1巻ではそういうものになっています。
収録作は第1話「反乱の日」、第2話「子守歌の残照」の2話。
第1話「反乱の日」は、ぶっちゃけて言ってしまえばお約束であるPCパーティ集結の為のお膳立ての話ですね。第1王子であるヒューバートの陰謀により国を追われる事になったピアニィが、秘密の抜け穴を使って国から脱出する間に出会ったアル、ベネット、ナヴァールとパーティを組み母の生まれた国であるアヴェルシアを目指す―――そういう流れになっています。山場は追っ手として登場するキンバリーとの戦闘、見せ場はアルをピアニィが仲間になってもらうために説得する場面やベネットが仲間に入るくだり、それからナヴァールの一人舞台、などでしょうか。戦闘時には12レベルからスタートしていることで、その高いレベルとそこから見せる多彩なスキルの使用ぶりが目を引きます。スキルのコンボなどが既に多用されたりしていて、最初から派手に進められています。また、プレイヤー同士の初対面による掛け合いは流石はベテランプレイヤー揃い、という感じでスムーズに会話が進んでいきますね。ピアニィ扮する大竹みゆ女史も、プライベートでTRPGを頻繁にプレイしていたという紹介があるだけあって、見事な溶け込みっぷりです。
第1話はその大竹女史の、歴戦のプレイヤーである矢野王子や菊地先生、鈴吹社長、Oはた先生たちをも圧倒するヘビーゲーマーな一面を楽しめる話でもありますね。ストーリー性のあるキャンペーンはあまりした事が無い、しかしダンジョン・プレイなどは頻繁にしていた、という大竹女史のゲームシステムに対する知識の深さと、ロールプレイの初心者っぷりというギャップが楽しめる話でもあります。
第2話「子守歌の残照」は、母の生まれ故郷であるアヴェルシア国まで逃亡してきたピアニィが、レイウォールに占領されてから寂れてしまったアヴェルシアを救う為、レジスタンスによる強攻策でのレイウォールからの独立を阻止する為にバーランドの城を無血開城をし、建国者がその国を建国する資格を持つと証明する『王の証』である『龍輝石』を求めてダンジョンへ向かい、さらにピアニィの存在を知ってレイウォールが攻め寄せてきた所を迎え撃つ―――という、些か性急な感じの話です。
しかしながら多くの出来事が起きる中、ピアニィの直感的発想であっさりリドルを解いたり、ナヴァールが軍師っぽく民衆を相手にしたアジテーションで格好良い演出があったり、アルとベネットがダンジョンでは菊池流の探索者の心理を手玉に取ったトラップの数々に引っ掛かってダンジョンの面白さを短い時間で魅せていたりと、色々と面白いところの多い話でした。
総じてこの巻は、前述した通りの長大な叙事詩の一端、ということでスケールがとても大きいです。またそれに合わせてPCたちも高レベルから始まっており、パーティを組んだばかりの初期に見られる事の多い、低レベルでの右往左往振りは殆ど見られません。高いレベルがもたらす数多くのスキルが、対処不能な事態、というのを回避させるからですね。しかしそれは逆に、高レベルによるスキル・コンボが最初から見られるという事で、それは敵も味方も両方が駆使するということです。それにより敵も味方も、一打逆転の可能性があるということになり、戦闘時などはコンボが上手く嵌まった方が勝つ―――的な印象があって、緊張感がありますね。今巻ではPC側が殆どの戦闘でアドバンテージを取っていて楽勝ムードが漂っていましたが、今後はそれが敵側にも起こる可能性がある、ということですしね。
最後に。
PCたちによる掛け合いもさることながら、今巻はネタ的にあまりにもおいしい展開が多い、笑える巻でもありました。中でもとりわけ笑えたのが、ベネットが登場する、ということです。ベネットはアリアンロッド界の柊蓮司になるのでは、という可能性を感じました。第1話の戦闘時の、楽勝ムードが漂う中でパーティみんなが自分の強さを演出する中でひとりだけクリティカルで敵の攻撃を受けてみせる、などはもはやダイスの女神と笑いの神の両方に愛されているとしか思えない、ナイスタイミングでした―――(笑