鋼殻のレギオス9

鋼殻のレギオス9 ブルー・マズルカ

著者・雨木シュウスケ先生。挿絵・深遊先生。
・登場人物
主人公は、かつて武芸が盛んな槍殻都市グレンダンで『天剣授受者』と呼ばれる12人の最上級の武芸者の1人にまでなったが、武芸者の誇りを汚す行為で都市を放逐されて学園都市ツェルニで1からの再スタートを志すレイフォン・アルセイフ。ヒロイン1、レイフォンに目をつけて自分の小隊にスカウトした、都市を守りたいという強い意志と信念を持つ普通の武芸者の女生徒、ニーナ・アントーク。ヒロイン2、ニーナの小隊に所属する天才的才能を持つ念威操者だがやる気の無い少女フェリ・ロス。ヒロイン3、入学式で起きた暴動でレイフォンに助けてもらい彼に思慕の念を抱くようになる新入生、引っ込み思案で気が弱いが料理が好きなメイシェン・トリンデン。
サブキャラクターは、フェリの実の兄でレイフォンたちが住む学園都市ツェルニの生徒会長、カリアン・ロス。メイシェンの幼馴染で記者志望の元気娘なミィフィ・ロッテン。メイシェン、ミィフィの2人と揃って3人で交通都市ヨルテムから来た、第17小隊メンバー入りした正義感の強い姉御肌のナルキ・ゲルニ。ニーナが小隊長を務める第17小隊の隊員で軽い性格の狙撃手、武芸者のシャーニッド・エリプトン。元・第10小隊でシャーニッドとの確執はまだあっても武芸者としての矜持などから第17小隊に参加したダルシェナ・シェ・マテルナ。ニーナの幼馴染で武芸者が使う<錬金鋼>のメンテナンスをするハーレイ・サットン。レイフォンの幼馴染、リーリン・マーフェス。リーリンの友人シノーラ・アレイスラ。レイフォンの武芸の師、デルク・サイハーデン。グレンダンの女王アルシェラ・アルモニス。サリンバン教導傭兵団出身でサイハーデン流刀技を使うハイア・サリンバン・ライア。女王を除けばグレンダン最強の12人である天剣授受者の1人、サヴァリス・クォルラフィン・ルッケンス、リンテンス・サーヴォレイド・ハーデン。サリンバン教導傭兵団のナンバー2、ハイアの後見人的立ち位置のフェルマウス・フォーア念威操者など。
・シナリオ
「わたしたちのことを、忘れないで」再会したリーリンが、レイフォンに渡そうとしているもの。それは、レイフォンの育ての親であり武芸の師でもある、デルクが託した錬金鋼だった。しかし、デルクの「許し」の証ともいえるそれを、レイフォンは拒説する。思い悩むリーリンだが、レイフォンもまた、行き場のない思いを抱えていた。その頃、ツェルニにはまたもや非常事態宣言が発令されようとしていた。都市戦が行われる中、ひそかにツェルニに潜伏中のサヴァリスは、うろんな男と接触する。そして、さまざまな思惑がツェルニに集い、動き出す(7&YHPより抜粋。)
・感想
第9巻。短編集だった第8巻とは違い、本編の話が進む巻です。
と言ってもこの巻で起きるのは、ツェルニを舞台にして色々な人たちの思惑とかが少しづつ進んでいくもので、大きく『この話が進む』というものはありません。その直前まで行って、次回へ続く、という感じです。強いて言えば優柔不断なレイフォンがリーリンとの関係で一歩踏み出す、というくらいでしょうか。
この巻は、レイフォンが師・デルクから送られたサイハーデン流免許皆伝の証である錬金鋼を受け取る、受け取らないでリーリンとやりあう話とその関係でレイフォンが再び刀を手にする、しないで周りの女性陣から様々な説得を受ける話。この辺りまでが前半で、後半は激動します。都市戦が勃発した中で汚染獣の襲撃が起きて、ツェルニに潜伏していたサヴァリスも動き出し、ニーナが再び廃貴族の力―――仮面の力が覚醒してしまい、謎の男・ディックも活動をはじめて―――と、全ての登場人物が活発に動き始める、というものになります。
見所はレイフォンが再び刀を手にするまでの道程、でしょうか。リーリンとのやり取り、フェリからの説得、ニーナの思い、そう行ったものを経て、レイフォンが再び刀を持つその時までのやりとりはグレンダンでレイフォンがした事に対する『許し』を、自分で自分に与える決心までの迷いと決意までの迷走として、見応えがあります。
そして後半にある汚染獣との戦いは、これまでの力押しだけの汚染獣による襲撃ではなく、少し捻った形での襲撃ということで、それをレイフォンたちがどう退けるのか、ということでも見応えがありますね。最近、何かと汚染獣に襲撃される回数の増えているツェルニ―――それはともすれば何かあると汚染獣が襲撃してきて話に起伏をつける、ということで、悪く取ればマンネリ気味です。しかし今巻はそこに汚染獣の襲撃に特殊性を持たせる事で、レイフォンたちの戦い方にも戦略を持たせる必要性を強いていて、これまでより少し難度の高い戦いになっていました。SRPG風に言うなら、ターン制限付きの戦い、といったところでしょうか。その状況下でサヴァリスも参戦しての戦いになっていて、派手さはそのまま、緊張感は割増、という戦いが見られました。
総じてこの巻ではストーリー的には特に大きな動きは無く、その手前、というところで落ち着いていますが、レイフォンが刀を使う決心をした、という意味でキャラクターの掘り下げ、或いはパワーアップ的な描写の巻だったといえると思います。その為、刀を使うようになったレイフォンという、元から最強キャラだったレイフォンがさらにパワーアップし、その状態のレイフォンがサヴァリスというもう一人の天剣授受者と共闘するという過去編ではない現代編での天剣授受者の共闘が見られる、最初の巻でもあり新しい何かが動き出す感触を感じられる巻だと思います。