鋼殻のレギオス6

鋼殻のレギオス6 レッド・ノクターン

著者・雨木シュウスケ先生。挿絵・深遊先生。
・登場人物
主人公は、かつて武芸が盛んな槍殻都市グレンダンで『天剣授受者』と呼ばれる12人の最上級の武芸者の1人にまでなったが、武芸者の誇りを汚す行為で都市を放逐されて学園都市ツェルニで1からの再スタートを志すレイフォン・アルセイフ。ヒロイン1、レイフォンに目をつけて自分の小隊にスカウトした、都市を守りたいという強い意志と信念を持つ普通の武芸者の女生徒、ニーナ・アントーク。ヒロイン2、ニーナの小隊に所属する天才的才能を持つ念威操者だがやる気の無い少女フェリ・ロス。ヒロイン3、入学式で起きた暴動でレイフォンに助けてもらい彼に思慕の念を抱くようになる新入生、引っ込み思案で気が弱いが料理が好きなメイシェン・トリンデン。
サブキャラクターは、フェリの実の兄でレイフォンたちが住む学園都市ツェルニの生徒会長、カリアン・ロス。メイシェンの幼馴染で記者志望の元気娘なミィフィ・ロッテン。メイシェン、ミィフィの2人と揃って3人で交通都市ヨルテムから来た、第17小隊メンバー入りした正義感の強い姉御肌のナルキ・ゲルニ。ニーナが小隊長を務める第17小隊の隊員で軽い性格の狙撃手、武芸者のシャーニッド・エリプトン。元・第10小隊でシャーニッドとの確執はまだあっても武芸者としての矜持などから第17小隊に参加したダルシェナ・シェ・マテルナ。ニーナの幼馴染で武芸者が使う<錬金鋼>のメンテナンスをするハーレイ・サットン。レイフォンの幼馴染、リーリン・マーフェス。リーリンの友人シノーラ・アレイスラ。レイフォンの武芸の師、デルク・サイハーデン。グレンダンの女王アルシェラ・アルモニス。サリンバン教導傭兵団出身でサイハーデン流刀技を使うハイア・サリンバン・ライアなど。
・シナリオ
嫌な予感がした。「隊長は、どうしました?」いずれわかることだし、誰かが聞かなければならなかった。「ニーナは現在、行方不明だ」冷たく、つらい現実を、銀髪の生徒会長が告げる。その瞬間、レイフォンは心の中でコトリ…となにかの音がしたのを感じた。その間にも、夥しい数の汚染獣がツェルニに向かって、愚直なまでの一直線で向かってくる。一方、グレンダンを発ったリーリンは途中で立ち寄った学園都市・マイアスで奇妙な事件に巻き込まれる。そこで彼女が出会ったのは—。超快進撃シリーズ、大転回の第六弾。(7&YHPより抜粋。)
・感想
第6巻です。あとがきでも解説されていますが、この巻から第2部スタート、ということだそうです。その為か、今巻はレイフォンを中心としたツェルニでの話ではなく、グレンダンを出てツェルニに向かっている途中のリーリンが主役っぽい感じになっています。グレンダンを出てツェルニに向かう途中で訪れた学園都市マイアス。ここで、ある事態にリーリンが巻き込まれての話がこの巻のメインの部分ですね。そしてそれらの合間を縫うようにして、レイフォンのことを書く部分があります。レイフォンが、戦う理由を誰かに依存し過ぎているという、カリアンの指摘。自分自身のことであるが故に確信が持てず、その言葉に悩むレイフォン。互いにその才能から悩むフェリとの話でそれらの思いを強くしながら、自分の力を使う事に対する意思を固めていくレイフォンの姿が書かれています。
この巻はまた、あとがきでも書かれていることですがドラゴンマガジン本誌に掲載され、この第6巻発売時にはまだ纏められていない短編集に掲載予定の「ア・デイ・フォウ・ユウ03」という短編で起きた出来事が密接に関わってくる作りになっています。その為、かなり色々なところで説明不足な印象が否めません。この短編集で起きた事件により、リーリンの前に突然ニーナが現れたり、この時ニーナが戦っていた相手のことが説明されたりするようですので。しかし逆に考えると、その短編を知らない=読者の立場はリーリンと同じで、何が起きているかさっぱりわからない。短編を知っている=読者の立場はニーナになり、いくつかは理解できる。ということになるので短編を知る前、知った後とで二重の楽しみ方ができる、とも取れますかね。
また、レイフォンの葛藤。ニーナの不在で不安定になるレイフォンの精神状態が示すようなレイフォン個人としての意思の弱さが書かれ、周りの人に弱さを指摘されたり悩みを相談したりしながらレイフォンが精神的な強さを手にしていく過程が、肉体的に最強であるレイフォンが次に手にするべき精神的な強さに対するアプローチとして描かれていました。戦う理由―――単純ながら一番悩ましいそれに対する、レイフォンが出す答えとは―――と、見所のひとつですね。
そして第2部スタートの巻として最も大きな出来事は、汚染獣と新しい形で接触したことでしょう。言葉を理解し、カリアンと会談する汚染獣、クラウドセル・分離マザー?・ハルペー。人の言葉を理解し、これまで単に人を餌としてしか見ておらずそれ故に本能で人間を襲うのだ、という認識だった汚染獣がそうではない、新しい姿を見せた事で『鋼殻のレギオス』世界のそのもの核心に触れている―――そう感じずにはいられない展開が見えました。
総じて今巻は、第2部スタートということでこれまでレイフォンを中心に物語が進んでいたのが、この巻ではリーリンを中心にして話が進んでいる、新しい視点での物語だと思いました。その上でレイフォンの精神的な成長や汚染獣の世界の核心に触れるような秘密が少し明かされたりなど、重要な展開が多い巻でもありましたね。しかし、前述したようにとある短編を読んでいないと分からない部分、説明されていない部分が多々あり、その点では読後に少し不満が残るかもしれませんね。