鋼殻のレギオス2

鋼殻のレギオス2 サイレント・トーク

著者・雨木シュウスケ先生。挿絵・深遊先生。
・登場人物
主人公は、かつて武芸が盛んな都市グレンダンで『天剣授受者』と呼ばれる12人の最上級の武芸者の1人にまでなったが、武芸者の誇りを汚す行為で都市を放逐されて学園都市ツェルニで1からの再スタートを志すレイフォン・アルセイフ。ヒロイン1、レイフォンに目をつけて自分の小隊にスカウトした、都市を守りたいという強い意志と信念を持つ普通の武芸者の女生徒、ニーナ・アントーク。ヒロイン2、ニーナの小隊に所属する天才的才能を持つ念威操者だがやる気の無い少女フェリ・ロス。ヒロイン3、入学式で起きた暴動でレイフォンに助けてもらい彼に思慕の念を抱くようになる新入生、引っ込み思案で気が弱いが料理が好きなメイシェン・トリンデン。
サブキャラクターは、フェリの実の兄でレイフォンたちが住む学園都市ツェルニの生徒会長、カリアン・ロス。メイシェンの幼馴染で記者志望の元気娘なミィフィ・ロッテン。メイシェン、ミィフィの2人と揃って3人で交通都市ヨルテムから来た、正義感の強い姉御肌のナルキ・ゲルニ。ニーナが小隊長を務める第17小隊の隊員で軽い性格の狙撃手、武芸者のシャーニッド・エリプトン。ニーナの幼馴染で武芸者が使う<錬金鋼>のメンテナンスをするハーレイ・サットン。レイフォンの幼馴染、リーリン・マーフェスなど。
・シナリオ
汚染物質が生態系を破壊し、人類は世界から隔絶された“自律型移動都市”で生きている。その中のひとつ、学園都市ツェルニの武芸科新入生レイフォン。—発端は彼が故郷に残してきた幻馴染みのリーリンからレイフォンに宛てられた手紙。偶然手にして、そっと開けてしまったひとりの少女だった…。そんなことはつゆ知らず、レイフォンは小隊長ニーナとのぎすぎすした関係、さらに「戦う」ことの意義について悩み中。一方ニーナも「強さ」とは何か、自問自答する日々を送っていた。そして手紙は、気まぐれな風のようにあちらこちらと飛び回り—。強烈大ヒット、最強学園ファンタジー第二弾。(7&YHPより抜粋。)
・感想
少しづつ学園都市ツェルニに馴染んでいくレイフォンの姿と、圧倒的強者であるレイフォンの姿に自身の中にある信念と自分の実力の差に焦りを感じてしまうニーナ、槍殻都市グレンダンからレイフォン充てに届いたリーリンの手紙を偶然手にして読んでしまったメイシェンの乙女心、フェリの不器用な上に無自覚なままレイフォンを案じる乙女心などが書かれる第2巻ですね。
今巻は、全体的な流れとしては第1巻と同じ形になっています。
所謂学園での生活やニーナたち小隊との日常を過ごすレイフォンを書く中で、他の登場人物達にもスポットが当たったり当たらなかったりしながら、最後は汚染獣との戦いになだれ込んでいく、というものです。
第1巻がレイフォンの話だったので、この第2巻ではニーナにスポットが当たっていますね。さすがヒロイン1、というところですか。彼女の起こしてしまった事態―――「都市(ツェルニ)を守りたい」という気持ちの強さに自分の実力が伴わない事から焦りを感じ、さらに強者であるレイフォンを見ていてニーナの想いが暴走してしまう―――その顛末が書かれています。基本的には大きな事件に繋がる事が起きたわけではないですが、ニーナが上級生である事、小隊の隊長であることなど様々な要因が絡み合った結果、彼女が無茶をしてしまうのも彼女の性格を考えれば無理ない事。その起こるべくして起こった事態を経て、小隊の結束―――レイフォンとニーナの信頼関係も含めて―――が、またひとつ深まる様子が、この1冊で描かれています。
他の登場人物達についても、色々とありました。
まずはメイシェン。偶然、自分充ての手紙の中に間違って紛れ込んでいたレイフォン充てのリーリンからの手紙を、その淡い恋心から起きた些細な嫉妬心から見てしまい、自己嫌悪しながらもっとレイフォンのことを知りたいと思うようになっていくという、内気ながら多感な時代の少女の姿を読者に庇護心と擁護心を沸き立たせるような繊細さで書き出しています。
次いでフェリ。こちらも偶然、リーリンの手紙を見てしまい、レイフォンに当初から持っていた興味をさらに深めていく姿が書かれています。それがメイシェンとは対極的に、はっきりと明確には明言されないだけに読者に色々な想像をさせる面白さが残っています。メイシェンははっきり分かるレイフォンへの思慕を見て楽しめ、フェリの真意は「こうにしか見えないが明言されない。他の意図もあるのか?」と推測する面白さがある、となっていますね。
バトル面に関しては、汚染獣との戦いがほぼ全てですが、その相手の汚染獣が中でも強力な固体である『老生体』と呼ばれるものであり、レイフォンをして単独での戦いでは場合によっての死を覚悟させるという緊張感に溢れたものでした。第1巻で出た幼生体というのが数で押し寄せる暴力、とするならこちらは単体での力による暴力。その対比が老生体になった汚染獣の凶悪さ、強敵さを演出していました。その中で新武器・複合錬金鋼を持ち出していたり、戦いの中でニーナやシャーニッドが駆けつけるなど、熱い展開もありましたね。
総じてこの巻はニーナが中心になって色々と空回りをしてしまいますが、その結果は何事も丸く収まる―――という、「最後には、雨が降って地が固まる」というハッピーエンドの巻でした。