鋼殻のレギオス

鋼殻のレギオス (富士見ファンタジア文庫)

鋼殻のレギオス (富士見ファンタジア文庫)

鋼殻のレギオス

著者・雨木シュウスケ先生。挿絵・深遊先生。
・登場人物
主人公は、守ろうとした人たちに石を投げられる結果になってしまった重い過去を持つ超人的武芸者、レイフォン・アルセイフ。ヒロイン1、レイフォンに目をつけて自分の小隊にスカウトする、強い意志と信念を持つ普通の武芸者の女生徒、ニーナ・アントーク。ヒロイン2、ニーナの小隊に所属する天才的才能を持つ念威操者だがやる気の無い少女フェリ・ロス。ヒロイン3、入学式で起きた暴動でレイフォンに助けてもらい彼に思慕の念を抱くようになる新入生、引っ込み思案で気が弱いが料理が好きなメイシェン・トリンデン。
サブキャラクターは、フェリの実の兄でレイフォンたちが住む学園都市ツェルニの生徒会長、カリアン・ロス。メイシェンの幼馴染で記者志望の元気娘なミィフィ・ロッテン。メイシェン、ミィフィの2人と揃って3人で交通都市ヨルテムから来た、正義感の強い姉御肌のナルキ・ゲルニ。ニーナが小隊長を務める第17小隊の隊員で軽い性格の狙撃手、武芸者のシャーニッド・エリプトン。ニーナの幼馴染で武芸者が使う<錬金鋼>のメンテナンスをするハーレイ。レイフォンの幼馴染、リーリン・マーフェスなど。
・シナリオ
大地の実りから見捨てられた世界。異形の汚染獣たちが都市の周りを闊歩し、人類は、それ自体が意識を持ち、歩行する“自律型移動都市”で暮らす。その中の一つ、学園都市ツェルニの新入生レイフォンは一般科の学生だったが、入学式の騒動で生徒会長に才能を見抜かれ、武芸科へ転科するはめになる。ツェルニでも汚染獣からの攻撃に備え、選択された者たちが自衛小隊を組んでいた。そのまま勝ち気な少女・ニーナの小隊に配属されるレイフォン。しかし彼には剣を持てない理由があった…。戦いを捨てた少年が、ひとりの少女と出会い—奇跡を生む。史上最強の学園アクション・ファンタジーが開幕。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は所謂ディストピア小説。崩壊した世界の中で生きる人類の姿を書いた作品ですね。大気汚染により生身では地上で生きていけなくなった人類が同じように大気汚染により変容した生物―――汚染獣―――の脅威に晒されながら、自律意志を持つ巨大な移動型都市という基盤の上で細々と生き延びている。その中で生きる人々の1人、レイフォン・アルセイフを主人公に、少年の挫折とそこから始まる新たな旅立ちの様子が、この第1巻で書かれています。
この作品は主人公が最強で、その強さが強調されるシーンが多かったりで目を引きますが、主人公が周りを助けながらも周りにも助けられながら話が進められていくという、人と人との繋がりがその根底に流れている作品ですね。
この巻では主人公の登場と内面に抱える問題の定義、それから周囲の登場人物たちの紹介と世界観の説明的なものが多くを締めています。
主人公のレイフォンが抱える過去の罪。そのことをレイフォンが明かさないままニーナを初めとした登場人物たちと親交を深めていくのは、後のカタルシスの為の伏線となっていてレイフォンがその罪と向き合う時に向けて着実と積まれていく「後ろめたさ」の分だけ、彼の苦悩を演出していましたね。しかしその分、その罪を明かした時とその後のニーナの反応は、レイフォンの心が感じている「苦悩」が簡単には決着のつかないというその「深さ」を示していました。これは今後、仲が良くなっていった登場人物たちとレイフォンが通る試練のひとつにもなっていて、ニーナとのこの出来事はレイフォンの最初の試練にもなっていて印象深いですね。
登場人物の内面に踏み込む精神的な話とは逆に、戦いなどアクションを中心とした肉体面での話としては、たった1冊の中に結構色々と詰まっていましたね。
レイフォンの実力試しをしようとニーナが模擬戦の形でレイフォンと戦ったり、別の小隊との模擬戦もあったり、汚染獣の幼生体の群れと戦ったりと。
しかし一番の見所はやはり、模擬戦などで真面目に戦わなかったレイフォンが本気の一端を見せて戦うところでしょう。武芸者としての最高峰に近い場所まで上り詰めたレイフォンが学園都市と言う悪く言えば未熟者しかいない場所で圧倒的な力でもって彼ら彼女らを守る為に戦うのは、それまで汚染獣幼生体と未熟な学園の武芸者との小競り合いながら必死に一進一退の攻防をしていた姿を見た後で見ると、その圧倒的強さに感嘆しますね。武芸者の最底辺と最高峰が並ぶからこそ、その力の差がはっきり見えて逆にカタルシスを感じる、というわけです。
総じてこの作品は、1人の少年が挫折から再び立ち上がり、歩き出そうとする物語。圧倒的力を持ちながらもその力の使い所を見失っている少年が、どのようにしてその力をもう一度使おうとしていくのか―――そういった辺りが最たる見所ですね。