神曲奏界ポリフォニカ 赤6

神曲奏界ポリフォニカ ジェラス・クリムゾン

著者・榊一郎先生。挿絵・神無月昇先生によるシェアード・ワールド・ノベル・シリーズの赤シリーズにおける第6巻です。榊先生はMF文庫Jレーベル「イコノクラスト!」シリーズや、ファミ通文庫の「まじしゃんず・あかでみぃ」シリーズなど、精力的に様々な作品を出しておられる今、脂の乗っている小説家、ですね。神無月先生はキネティック・ノベル版ポリフォニカ赤でも原画をされていて、著作に18禁PCゲーム「デミウルゴスの娘」や「魔王と踊れ!」といった作品もあります。
・登場人物
メインキャストは、主人公にしてツゲ神曲楽士派遣事務所所属の神曲楽士、朴念仁が珠に傷だが優しい性格で人に好かれやすいタタラ・フォロン。ヒロインは、フォロンの契約精霊で始まりの精霊の1人でもあり、『紅の殲滅姫』などの異名でも呼ばれていた事のある少女の姿をした上級精霊、コーティカルテ・アパ・ラグランジェス。
サブ・キャラクターたちはフォロンと同じツゲ神曲楽士派遣事務所に所属する双子の姉妹で姉の、新米神曲楽士として現在実地で勉強中の、フォロン先輩大好き!の金髪元気娘ユギリ・ペルセルテ。双子の姉妹で妹の、ツゲ神曲楽士派遣事務所所属事務員、銀髪でペルセルテを危なっかしく思いながら見守るやさしくおしとやかながらその芯に強い意思を持つユギリ・プリネシカ。フォロンの親友でツゲ神曲楽士派遣事務所所属の神曲楽士、契約精霊こそいないものの培った努力と天性のセンスで膨大な数の下級精霊を呼ぶことのできる、サイキ・レンバルト。学生時代から才覚を発揮していた天才で、ツゲ神曲楽士派遣事務所を立ち上げた、フォロンやユギリ姉妹、レンバルトのの雇用主でもあるツゲ・ユフィンリー。ここまでが『ツゲ神曲楽士派遣事務所』に所属するメンバー。ここからはその他のキャラクターとなります。以前とある事件でフォロンたちと関わった結果、大企業の息子の立場から脱し、恋人となった精霊のシェルウートゥと一緒にい続けるために神曲楽士を目指してトルバス神曲学院で学ぶ事を決めたオミ・カティオム。以前のとある事件でフォロンたちに救われた上級精霊で、その事件の結果カティオムと人と精霊の垣根を越えて恋人同士となったシェルウートゥ・メキナ・エイポーン。キネティックノベル版で登場して人気を得て、今巻では作品出演と相成った本当に生まれたばかりの下級精霊、ミゼルドリット。ユフィンリーの契約精霊で中級精霊ながらその卓越した格闘センスで上級精霊とも渡り合ってみせるヤーディオ・ヴォダ・ムナグール。精霊が起こした犯罪「精霊犯罪」を担当する精霊の刑事、シャドアニ・イーツ・アイロウ。古き精霊の一人で、コーティカルテが始祖の精霊として存在していた頃から既に生きている牛頭人体の半人半獣の精霊、しかしその性質はどこか見ている者に朴訥とした暖かさを感じさせる中級精霊、ミノティアス・オロ・バーリスタン。
この巻でフォロンたちが関わるトルバス神曲学院の関係者として、フォロンが指導する学生たちの1人で、噂話が大好きでフォロンの女性関係などに良くツッコミを入れる学生、ミナベ・トレス。精霊に過剰に反応し、精霊嫌いを公言する学生、クガノ・リュネア。引率の講師、カザマル・ナルニアーテ。ニシカ・ポークト。謎の赤い鬣を持つ馬型の精霊。そして敵勢力的な存在として、ライナスという男と作業着の女がいます。
以上、今巻は登場人物の多い話です。
・シナリオ
「私に触れるな――バケモノ」
ミゼルドリッドの袖が触れた瞬間放たれたその言葉は、その場にいた全員を凍り付かせた。
クガノ・リュネア。トルバス神曲学院の生徒でありながら、精霊嫌いを公言する孤独な女生徒。
特別講師としてかり出されたフォロンは、彼女に自分と通じる影を見る。
そんな彼らにつきまとう、血の様に赤い鬣を持つ馬型の精霊。そして街でささやかれる奏始曲の噂。
この三つが結びついたとき、コーティカルテとフォロンは過去の因縁と隠された企みに遭遇する!
クリムゾンシリーズ待望の第6巻!(GA文庫OHPより抜粋。)
・感想
神曲奏界ポリフォニカ・『クリムゾン』シリーズの約1年2ヶ月ぶりの新作です。
今巻は大きな話の前章的立ち位置。来月(2008年08月15日)予定の発刊分『エイディング・クリムゾン』でひとつの話になるようですね。
ストーリーは、トルバス・スピリット・フェスタという大音楽祭みたいなもので、とあるステージでトルバス神曲学院の学生たちに神曲を演奏させるための特別講師になったフォロン。だがそれは所謂余り物の寄せ集め集団で、まだまるで神曲を演奏できた事の無いものばかりしかいなかった。その中には懐かしい顔―――以前の事件で関わったカティオムや顔見知りの精霊ミゼルドリットなどもいたが、それ以上に精霊嫌いを公言する女生徒―――クガノ・リュネアなどがいて、前途は多難という様相。それでもフォロンはリュネアを気にかけながら何とか学生たちに新曲を演奏するということを、その悦びを知ってもらおうと奔走する。リュネアを気にかけるフォロンに息巻くコーティカルテを宥めながら、合流したペルセルテやシェルウートゥも巻き込んで大騒ぎしながらもトルバス・スピリット・フェスタに備えようとするフォロンたち。しかし一方では、きな臭い事件の匂いが漂い始めていた。かつてフォロンたちツゲ神曲楽士派遣事務所の面々が関わった事件―――『クラト・ロヴィアット事件』。その時、精霊を強制的に従え、時には発狂まで至らしめる『ダンテの奏始曲<天国変><地獄変>』。その複写が反精霊団体の手に渡った可能性が出てきており、警察からクラト・ロヴィアット事件に関わったツゲ神曲楽士派遣事務所の面々に捜査協力の要請が来ていた。精霊嫌いの少女リュネアが精霊を嫌う理由、反精霊団体の暗躍、リュネアを気にするフォロン―――これらが絡み合った時、海上浮遊都市『ホライズン』は、事件の舞台となる! と、いった感じになっていますね。
この巻は前述した通り前章的な話で、ちょっとした小競り合いのバトルなどありますが殆どは日常のシーンで締められます。神曲を演奏するため、学生達を指導するフォロンの姿や、リュネアを気にしているフォロンやカティオムの動向に動揺するコーティカルテとシェルウートゥ、ダンテの奏始曲を追うシャドアニとユフィンリー、レンバルトなどが仕事をする姿などなど、精霊と神曲楽士が組んでガチで神曲を演奏しての戦闘はラストに一度、あるくらいですね。
特に作中で一番目を引いたのは、と言えばシェルウートゥがカティオムの動向に一喜一憂している所が一番目立っていましたかね。精霊と人間であることから壁を感じて情緒不安定気味になっていて、色々なところでカティオムの心変わりを心配して心細そうにコーティカルテに相談したりカティオムをストーキングしてしまっていたりと、精霊といえども『恋する少女』に違いない姿を見せていて印象的です。また、普段はコーティカルテが見せていた姿を今巻ではシェルウートゥが担当し、その姿に対してコーティカルテが感想を持っていたりなどしているので、これまでとは若干違う形で『精霊と人間のカップル』が書かれていて印象深いです。
それから、赤シリーズでも白シリーズでもメインに近い立ち位置で活躍しているミノティアス。彼の今巻でのチョイ役ぶり、しかしながらその中でコーティカルテでも持て余していたことを時間は掛かるとは言え、サッとやってみせたのは伊達に長い年月を生きている精霊ではないな、と思わされました。ポリフォニカシリーズにおける存在感のあるという意味でのベストサブキャラクターは彼なのではないか、と個人的には思いましたね。
総じてこの巻は、前編ということで起承転結に当たる『起』の話が多い作品ですね。クガノ・リュネアの登場と彼女とフォロンとカティオムが関わる部分や、反精霊団体による奏始曲を用いての暗躍、学生たちによる神曲演奏の為の勉強などは特に重要な『起』に当たる部分として、残りの『承転結』の前振りの為に多く取り上げられているかと。後編で奏始曲がどう扱われるのか、リュネアの精霊嫌いの理由が語られるのか、など、個人的には後編が待ち遠しいほど面白かった作品でした。