烙印の紋章

烙印の紋章 たそがれの星に竜は吠える

著者・杉原智則先生。挿絵・3先生。杉原先生は電撃文庫レーベルで『殿様気分でHAPPY!』シリーズや『レギオン』シリーズ。『ワーズワースの放課後』シリーズ、『頭蓋骨のホーリーグレイル』シリーズ、『熱砂のレクイエム』シリーズなどを著作に持たれています。別レーベルではスニーカー文庫で『てのひらのエネミー』シリーズ、『交響詩篇エウレカセブン』のノベライズ作品などを書かれていますね。
・登場人物
主人公で、メフィウスの皇太子ギル・メフィウスと同じ顔を持つがゆえに、鉄の虎の面をつけさせられて奴隷の剣闘士として生きてきたオルバ。ギル・メフィウスと互いの国家間の戦争終結の為に政略結婚として輿入れしてきた、時には自分で飛空挺にも乗るほど気の強い勝気なガーベラ王国王女のビリーナ。奴隷で剣闘士、オルバの仲間ゴーウェン。奴隷で剣闘士の美丈夫、シーク。オルバがギルと同じ顔を持っていることに気がつきオルバに鉄の虎の面をつけさせた張本人、メフィウス貴族のフェドム。憎きメフィウスに輿入れするしかなかったビリーナを、ガーベラ王国を案じ反乱軍として立つ、ガーベラ王国の騎士リュカオン。オルバたちと同じ奴隷達の収容所で竜の世話をしていた竜神信仰の部族出身のホゥ・ラン。『うつけ皇子』と呼ばれるほどの典型的な駄目皇子だが、メフィウスの皇子であるギル・メフィウス。そんなギルの義妹だが、兄のギルを試すようなそぶりを見せたりと含みのありそうと思しきイネーリ。
・シナリオ
かつて高度な知能を持った竜が支配し、魔素を利用した文明に支えられた世界。十年の間、戦争を繰り広げてきたメフィウスとガーベラは王族同士の政略結婚により、その長い戦いに終止符を打とうとしていた。幼い頃、戦争により故郷を追われ剣闘士となったオルバは、瓜ふたつの容姿をしていることから、婚礼を控えた、うつけと噂されるメフィウスの皇子とすり替わることになる。一方、勝気なガーベラの姫、ビリーナは皇子を籠絡して自国の利益を図ろうとひそかに決意する。そんな二人の婚礼の途中、何者かの襲撃があり―!?二人の思惑と和平の行方は?杉原智則が贈るファンタジー登場。(7&YHPより抜粋。)
・感想
この作品は主人公が一国の皇子と入れ替わる類の英雄譚ですね。同種類の作品として『タザリア王国物語』がありますので、どうしても比較してしまいますね。
主人公の境遇、入れ替わる経緯、入れ替わった後の事など共通するところが多く、作品として被っていると言うのはどうしても否定できないでしょう。主人公の境遇―――タザリア王国物語では主人公はスラム育ちで、偶然騎士長が王子と同じ顔である事を知り彼を王子の影武者として取り立てる。対して烙印の紋章では、同じ顔を持つことを知った貴族の一人が彼に鉄の面をつけて顔を隠させ、いざと言う時に何かの役に立てようとして、そのいざと言う時が来た時、影武者として取り立てると言うもの。どちらも偶然、偉い人が王子と同じ顔を持つ主人公を見つけて彼を取り立てるというもの。入れ替わる経緯も、影武者である主人公が生きている間に本物が死に、影武者ではなく本物の王子として取り立てられるというもの。入れ替わった後は、出来の悪かった本物よりも才覚を示す影武者が、国の危機などを救う、というもの。こうして列挙すると、やはり驚くほど類似点は多いですね。
しかしながら作品としては、剣と若干の魔法―――魔道具による、ファンタジーがメインであるタザリア王国物語に対し、烙印の紋章は剣を使いながら竜が出たりと、ファンタジーがメインでありながらも飛空挺が科学的に説明できる(それでも魔素という特殊な元素があるという設定があったりしますが)理由で運用されていたり、銃が出たり、宇宙と言う概念が意外と一般に浸透していたりと色々違うところが見られます。完全ファンタジーがタザリア王国物語、ファンタジー+SFっぽい?が烙印の紋章、というところでしょうか。
登場人物個人に目線を向けると、主人公であるオルバは復讐に燃える奴隷ということで、その復讐心が勝気なビリーナとの交流や皇子の影武者をしている間にどう動いていくのか、復讐の対象であるオーバリー将軍にどう関わっていくのかなどは気になるところですね。
既にシリーズ化していて複数冊出ている共通項の多い作品、タザリア王国物語という作品がある烙印の紋章。ここからどう独自の世界観や展開を見せていくのかが楽しみですね。